2007年09月07日発行1001号

【暴走する派兵の現場 元イラク先遣隊長の本音 「あえて巻き込まれ、戦闘に参加するつもりだった」】

 イラクに派遣されていた自衛隊幹部が、オランダ軍が攻撃されたら、あえて巻き込まれる状況をつくりだして、戦闘に参加するつもりだったことを告白した。その主は、「ヒゲの隊長」と呼ばれ、先の参議院選挙に自民党から立候補し当選した佐藤正久・元イラク先遣隊長だ。

 放映したのは、8月10日のTBSニュース。集団的自衛権に関する政府の有識者会合が、これまで憲法上できないとされてきた自衛隊の「駆けつけ警護」を認める方向で意見が一致したことを報じる中で、JNNが行った佐藤のインタビューが流れた。サマワで治安警備を担当していたオランダ軍が攻撃を受けた場合の対応について聞かれた佐藤は、情報収集の名目で現場に駆けつけ、あえて戦闘に巻き込まれることで、「駆けつけ警護」(戦闘への参加)を強行するつもりだったと告白したのだ。

 海外で活動中の自衛隊が攻撃を受けた他国軍のもとに赴いて応戦する「駆けつけ警護」は、正当防衛を超え武力行使につながるとして政府の憲法解釈でも認められていない。そのことを知った上で佐藤は、あえてそれをやろうとし、「その代わり、日本の法律で裁かれるのであれば喜んで裁かれてやろうと(思っていた)」と開き直ったのである。

武器使用たきつける教本

 大手マスコミ各社はこの事実をほとんど報道すらしていないが、佐藤発言は重大な問題をはらんでいる。

 一つは、あえて戦闘に巻き込まれようとしたことである。これは果たして佐藤個人の考えだろうか。

 防衛庁(当時)・自衛隊が隊員向けにまとめた「武器使用権限の要点」(03年11月12日現在)は、派遣先の現場外で他国部隊が襲撃を受けた場合は「他国の武力行使と一体化する」ので一応は「救援できない」とする。だがその一方で、「要件を満たせば武器使用が可能」の項で「武器を使うことについての積極的な意思がなければ、武器を持って救助に駆けつけることは構わない」「危険に陥った場合には、武器を使用できる」と明記している。佐藤の「あえて巻き込まれて応戦」路線は、まさにこの教本の応用ではないのか。

 だとすれば、これは佐藤一人の考えではなく、派遣された隊長・隊員に共通の理解だったことになる。

海自にも「前科」

 もう一つは、現場の部隊は法はもちろん政府自身が建て前としてきたシビリアン・コントロールすらも無視する気でいるということだ。法律違反をしても構わないという考えを持っている佐藤に国会議員を務める資格はないが、問題はそれだけにとどまらない。

 かつて満州に派遣されていた関東軍は1931年、独断で「柳条湖事件」を引き起こし、満州事変―日中戦争の引き金を引いた。これは、決して過去の話ではない。

 実際、海上自衛隊にも「前科」がある。米国が同時多発テロの攻撃を受けた直後の2001年9月21日、横須賀港に停泊していた空母キティホークなど4隻の米艦船が出航する際、海自の護衛艦2隻が「調査・研究」を名目に、禁じられている「護衛」を行なったのだ。

 いまイラクには空自の輸送部隊が残っているが、その任務はイラク特措法に基づく「人道復興支援活動」ともかけ離れている。もともと「人道復興支援の活動に支障を及ぼさない範囲で実施する」とされていた「安全確保支援活動」(米軍の後方支援)が8割以上を占めている。

 吉田正・元航空幕僚長は東京新聞のインタビューで、「私は首相官邸で『万一撃たれても…はしごを外さないでほしい』と求めた」と公然と述べている。

  *   *   *

 安倍は、佐藤発言を問題にすらしていない。むしろ、派遣された自衛隊員があえて巻き込まれ、自分の身を守るために応戦し、結果として「駆けつけ警護」をやることは、武力行使を既成事実化するものとして歓迎するに違いない。

 安倍内閣は11月1日に期限切れを迎える「テロ特措法」の再延長を狙っている。だが、ペルシャ湾で多国籍軍の艦船に給油する活動は、武力行使と一体の活動であり、違憲だ。イラク占領の大義名分もとっくに失われている。

 佐藤発言の重大性を広く知らせることは、自衛隊撤退世論を強める力になる。

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