2007年09月28日発行1003号

【安倍政権投げ出しの背景 民意は構造改革と海外派兵にノー 国民に顔を向けない福田と麻生】

 次期自民党総裁をめざす福田康夫と麻生太郎の「選挙戦」が連日メディアを覆いつくしている。9月23日の新総裁選出が山積する問題解決へのスタートとなるかのような過熱ぶりだ。しかし、福田も麻生も自民党全体も、国民に顔を向けた政策も意欲も持ち合わせていない。安倍の政権投げ出しの背景にある戦争国家路線と新自由主義改革への怒りを真摯に受け止めてなどいない。どちらが首相になっても安倍後継政権の行き詰まりは必至だ。

何も競わない総裁選挙

 安倍退陣は、「遅すぎて、早すぎる」というタイミングの問題や「無責任の極み」(志位共産党委員長)という責任論の問題ではない(居座り続けることが責任を取ることだとでも言うのだろうか)。まして「子どものわがまま」といった、個人の資質で済ませる問題ではない。個人の資質に目を奪われれば、今度は「お坊ちゃん」ではない、経験を積んだ、常識ある、政治家としての力量のある人を選ばなくてはならないという結論しかなくなる。

 自民党9派閥のうち8派閥が、安倍とは違い「安定感がある」「調整能力にたけている」というセールスポイントで福田を次期総裁・首相に送り出す談合をいち早く行なった。安倍退陣が意味することを隠し、真摯な総括を避けて、国民の目をそらせるためだ。

 大勢はすでに決まっているが、麻生は、国民の関心を安倍の政権投げ出しから総裁選にひきつけるために対立候補を演じ続けている。

 福田も麻生もこれまで小泉・安倍が進めた政策を抜本的に転換させる公約を打ち出さず、政策論争を戦わせてさえいない。

 両者とも、テロ対策特措法によるインド洋での自衛隊の給油活動を継続することを言明している。福田は給油活動は「対外公約」として約束を果たす努力を表明。麻生は「インド洋の海上自衛隊の活動は日本の国益」と言い切った。

 国民の間に深刻な格差を拡大し、底なしの貧困を押し付けた小泉構造改革についても両候補はその継承を打ち出している。福田は「小泉構造改革の方向性は正しいと思う」、麻生は「経済成長率や法人税収の伸びなど大きな変化が起きたのは、間違いなく改革の成果だ」と述べた。

 格差是正を求める国民の声に対しては「社会情勢などの変化に応じて手直しをすることは必要だ」(福田)「痛みが伴った部分に対して手当てがいるのではないか」(麻生)とリップサービスでごまかそうとしている。構造改革路線を根本的に転換するつもりなど両者とも全くない。さらに、消費税増税による一層の大衆課税強化も将来の選択肢だとそろって公言すらしている。

安倍居座りが怒り増幅

 安倍は退陣記者会見でわけのわからない応答に終始した。しかし、その中で真実も語った。「今の状況で国民の支持、信頼の上において力強く政策を進めていくことは困難だ」というくだりである。

 自分の進めたい政策が国民の支持・信頼を得ていないことを安倍は初めて認めた。安倍の政策とは、「戦後レジームからの脱却」つまり“押し付け”憲法の戦争放棄条項を破棄し、新憲法を制定し、公然と戦争に乗り出していける国=「美しい国」日本へと右ハンドルを切ることであった。その業績で歴史的な宰相として名を残したかったのだ。この妄想に凝り固まった安倍は、生活苦からの解放を望む庶民の願いに目を向けることなく、参院選で新憲法制定を争点にすると宣言した。

 しかし、自民新憲法案の問題点が焦点化する以前に、新自由主義改革の犠牲を押し付けられた国民・地方の怒りが爆発、自民党は歴史的な敗北を被った。

 にもかかわらず、安倍は「基本路線は支持されていると思う」と居直り、自らの改憲・戦争国家路線は拒否されていないと強弁し、さらに国民の怒りをかき立てた。その結果、新憲法制定どころか、小泉時代から過去5年間継続してきた自衛隊の給油活動を自分の内閣の時に中断させられ、インド洋からの撤収に追い込まれかねない事態すら招いた。戦争オタク政治家は、政策を軌道修正し支持を回復するような政治センスもなく、退場するしか道が残されていなかった。

 安倍を退陣に追い込んだ事態をどのように見るか。7月参院選に示された国民の怒りは、自民惨敗で「溜飲を下げ」、沈静化するような一時的なものではない。安倍の開き直りが増幅した形で、戦争国家路線と新自由主義改革に対する国民の怒りはますます拡大・深化している。

 福田・麻生の総裁選の中、参院選で惨敗した地方組織からは「格差是正など地方の願いは参院選で民意として示された。それを真正面から受け止めなければ新しい自民党のスタートにはならない」(徳島県連)「参院選の反省を踏まえて総裁選に臨んでもらえる人」(愛媛県連)などの声が出ている。自民党内部から大きな不満が噴出している。

 連立を組む公明党は国会での新首相指名の前提として「国と地方の格差や負担増の問題について、ある意味では小泉・安倍路線の政策を修正する政権協議・政策協議をしたい」(北側幹事長)と語った。

 こうした声に押されて、福田は後期高齢者医療制度の来年4月スタートの凍結を示唆し、麻生は最低賃金の引き上げを語りだしている。だが、経済成長戦略は堅持するという。グローバル資本や富裕層の利益は徹底して擁護するのだ。そのグローバル

資本は医療費抑制を求め、最低賃金賃金引き上げに反対している。

 付け焼き刃の総裁選公約は政策のほころびを一層拡大していくにちがいない。

戦争国家は阻止できる

 安倍のサプライズ(政権投げ出し)による国会中断で、テロ特措法の延長はほぼ不可能となった。残された選択肢は、新法制定による給油活動の再開だ。だが、新法は自衛隊派兵への国会承認をはく奪するという大きな問題を抱えている。安倍は参院選前には衆参多数派による強行採決を繰り返し、国会審議を徹底して軽視・無視した。そのことが国民の怒りを呼んだ。衆院に300議席持つとはいえ、現在の自民党に国会承認をはく奪する新法を強引に成立させる力はない。できるだけ先送りしたい解散・総選挙を自ら引き寄せることにもなりかねないからだ。

 インド洋から自衛隊を撤退させるきわめて現実的な展望が広がっている。安倍後継が誰になろうと、安倍を退陣に追い込んだ政治状況は簡単にひっくり返るものではない。小泉・安倍によって進められてきた戦争国家路線と新自由主義改革を根本から転換させる闘いを強めなければならない。

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