2007年09月28日発行1003号 ロゴ:なんでも診察室

【脳梗塞の治療と医療】

 皆さんには起こらないように祈ってはいますが、多くの人がいつか経験する脳梗塞を考えてみます。

 脳梗塞の初期に効果が証明されている薬物治療は、アスピリンを48時間以内に飲み始めることだけです。最近、発症3時間以内に使うと効果があるという薬も使われ始めていますが、危険性があり、効果も定かでありません。

 ところが、日本ではアスピリンはほとんど使われず、日本独自の高価な3種類の薬がふんだんに使われています。そんなに良い薬が使われる日本の医療は最高!といえるのかなと、医療問題研究会(医問研)で詳しく調べてみました。

 案の定、3種とも効果は大変怪しいものでした。アルガトロバンという薬では、最も厳密にされたはずの人体実験で、この薬を使った59名中5人が死亡、使わなかった59名では1名の死亡でした。ところが、効果があったとするデータからはこれらの死亡者を除外した上で、アルガトロバンを使った方が重症が少なかったから効いたとしているのです。こんなの詐欺ですよね。他の2種も似たり寄ったりでした。

 そこで昨年、これらのことをある薬剤関連の学会に報告しましたところ、参加者から「へー知らなかった」とか、「他の形式でも発表してください」などと言われました。それではお言葉に甘えてと、長い論文にしてその学会の雑誌に投稿しました。

 製薬会社に大変都合の悪い論文を掲載する学会はほぼないのが日本の現状です。案の定、最近になって「言っていることはわかりますが形式が不十分」と、掲載を拒否してきました。相当な労力をつぎ込んだ私は怒りで血圧が上がりましたが、脳梗塞にはなりませんでした。

 しかし、脳梗塞になった方々には、何の利益もないのに薬代だけでも高いもので1人当たり24万円、点滴を実施する薬剤師・医師・看護師などの労力を含めると多額の費用をかけているのです。一方、アスピリンの内服は安価で労力も喰いませんがあまり使われていません。

 脳梗塞の例は氷山の一角に過ぎません。日本では、効果のない治療や診断に多額のお金と労力が使われています。しかも、ますます多額の薬を使い検査をして「単価」を上げる方向に政策的に誘導され、儲からない患者は入院させてくれないという状況が作られつつあるのです。

 入院を断られるのは困りますが、効かなくても高価な薬を使われて入院させてもらう現状も困ったものです。高くても安くても患者に利益のある医療を、患者負担なしで受けられることを目指したいものです。

    (筆者は、小児科医)

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS