2011年04月22日発行 1179号

【"フクシマは警告する" 欧州で高まる原発廃止世論】

政府も「レベル7」認める

 菅内閣は福島第1原発事故について、事態の深刻さをできるだけ小さく見せようとしているが、その破たんがあらわになった。

 原子力安全・保安院は4月12日、原発事故について国際評価尺度(INES)で、最も深刻な「レベル7」(86年のチェルノブイリ事故並み)に引き上げ ると発表した。保安院は事故発生時、「外部への大きなリスクを伴わないレベル4」としたが、3月18日「レベル5に相当」(79年スリーマイル事故並み) と改め、今回さらに引き上げた。保安院は、なおも「放射性物質の放出量はチェルノブイリ事故の1割前後」と事態を軽く見せようとするが、放射能は今も大気 中にばらまかれ、汚染水による海の汚染も続いている。しかも、1か月経っても冷却のめどすらたっていない。東電幹部も「最終的な放出量はチェルノブイリを 上回るかも知れない」(4/12ロイター)と認めざるをえない。日本政府は情報を隠してきたが、海外では、当初から深刻に受け止められていた。さらに放射 能汚染水を意図的に海に捨てたことなどに、厳しい批判が広がっている。

原発廃止や縮小が多数に

 今回の原発事故は、欧州諸国の世論にも大きな影響を与えている。主な国の動向を見てみよう。

●ドイツ

 最も敏感に反応したのはドイツだ。シュテルン誌が3月14日に行なった世論調査によると、「即座、または5年以内にすべての原発を止めるべきだ」との意 見が63%を占めた。26日には反原発デモが行なわれ、過去最大規模となる25万人が参加し、「フクシマは警告する。すべての原発を停止せよ」という横断 幕を掲げて行進した。

 27日に実施されたドイツ南部バーデン・ビュルテンベルク州議会選挙で、脱原発を掲げる環境政党・緑の党が得票率を倍増させ第2位に躍進。第3位の社会 民主党と連立を組んで州政権を担うことが確実になった。

●オーストリア

 オーストリアは、78年に原発建設を禁じる原子力禁止法が制定され、反原発を国是にしている。今回の事故を受けて行なわれた世論調査では、国民の9割が 欧州で原子力発電を行なうべきではないと答えた。同国政府は4月中に、原発を導入していない欧州の国を対象に「反原子力会議」の開催を検討しているとい う。

●スイス

 ル・マタン紙が実施した世論調査によると、将来的に国内の原発廃止を望む意見が87%に達した。同国内では原発5基が稼動中で、09年の世論調査では 73%が「原発は必要」と答えていた。

 またスイス北部のフランス国境に接するバーゼル、ジュラ両州は、フランス政府に対し、アルザス地方のフッセンハイム原発の運転を一時停止するよう要求し た。声明は、同原発2基は「欧州でも最も活発な地震帯に位置しているため、安全性を再評価する必要がある」としている。

●ギリシャ

 トルコが地中海沿岸に建設を計画している初の原発が近隣諸国に波紋を投げかけている。ギリシャのパプリアス大統領は「地震多発地帯に原発を建てるトルコ の意図は正気とは思えない」と発言し、EU(欧州連合)の介入を求める意向を明らかにした。キプロスのパスハリーデス商工相も「深刻な懸念」をEUに伝え た。

 こうした動きを受けて開かれたEU首脳会議は3月25日、EU共通の原発安全基準を設定することなどで合意した。

●イタリア

 イタリア政府は原発再開計画を1年間凍結することを決めた。同国はチェルノブイリ原発事故以降は原発を停止していたが、ベルルスコーニ政権は09年、電 力不足を補うためとしてフランスの技術を導入し4基の原発を新設する計画を進めていた。

●フランス

 フランスは電力の原発依存率が8割といわれる突出した原発大国だが、フランス・ソワール紙が最近実施した世論調査では、依存率を減らすことを望む人が 83%に達した。

●英国

 英国でも原発反対の声は増えている。世論調査会社が国際環境NGO「地球の友」の依頼で実施した電話調査によれば、原発の新設に「賛成」35%、「反 対」28%という結果だった。昨年11月の別の世論調査では「賛成」47%、「反対」19%だったことからすると、大きな変化といえる。また、今回の調査 では、原発の安全性に不安を感じるとの声が44%にのぼった。

 日本政府・マスコミは、原発事故の収束と地震・津波被災者の救援を口実に、今後の原発のあり方に関する議論を封じ込めようとしているが、そんなことが許 されるわけがない。原発の危険性と「原発をなくすと電力需要をまかなえない」という主張のウソを徹底的に暴き、「原発はいらない」の声を広げていかなけれ ばならない。
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS