2014年12月12日発行 1358号

【貧困拡大したアベノミクス/株長者の一方で実質賃金16か月連続減/消費増税収は法人税減税で消えた】

広がる貧富格差

 安倍首相は、総選挙で「アベノミクスへの国民の評価を問う」とくり返す。

 アベノミクスの下で、貧富の格差が広がり、国民生活はいっそう苦しくなっている。

 野村総合研究所が発表した2013年の純金融資産保有額別世帯数と資産規模(推計)によると、純金融資産1億円以上5億円未満の「富裕層」と同5億円以上の「超富裕層」(合わせて100・7万世帯)が保有する純金融資産総額は前回(2011年)比28・2%増の241兆円。全5250・3万世帯の保有する純金融資産総額が1286兆円なので、わずか1・9%の世帯が全金融資産の18・7%を保有していることになる。

 これは、アベノミクスの第1の矢とされる「異次元金融緩和」による円安と株価上昇がもたらしたものだ。

 その一方で、2012年からの1年間で年収200万円以下のワーキングプアは30万人増えた。預貯金や株式を全く保有していない世帯は全体の3割を占める。アベノミクスによって貧富の格差はますます広がっている。

法人税減税で成長?

 安倍政権は、法人税の実効税率(国税と地方税の合計)を15年度に2〜3%引き下げ、17年度以降に20%台にする方針を決めている。

 安倍首相のブレーンである浜田宏一エール大名誉教授は、今後は軸足を「第3の矢」(成長戦略)に移す必要があるとし、規制緩和と法人税減税が重要な位置を占めるとする(10/13日経)。法人税の実効税率35・64%(東京)の税率を20%近くまで引き下げれば、「日本企業の投資を国内に引き止めるだけでなく、外国の投資を日本に呼び込める」と言う。

 だが、需要が見込める場合に投資は増えるのであって、利益にかかる税率を安くしたからといって投資が増えるわけがない。グローバル企業は法人税率引き下げの有無に関わりなく海外移転を進めており、しかも現実にはまともに法人税を払っていない(本紙第1353号2面参照)。

 グローバル企業や富裕層が潤う一方で、国内需要が低迷しているのは国民の購買力が低下しているからだ。

 内閣府が11月17日に発表した7〜9月期の実質国内総生産(GDP)は、前期(4〜6月期)に続いてマイナス成長となった。GDPの約6割を占める個人消費の回復が鈍いことが原因だ。円安による輸入原材料の値上がりと4月からの消費税率引き上げで物価が上がる中、それに見合う賃上げはなく、物価を反映した実質賃金指数は10月現在16か月連続の前年比マイナスとなっている。

 消費が伸びず、設備投資も前期のマイナス4・8%に続き、7〜9月期もマイナス0・2%と伸びていない。投資を増やそうと思えば、需要を支える国民の購買力(実質所得)を増やす(正規雇用の拡大、最低賃金引き上げなど)以外にない。

消費税で穴埋め

 安倍は17年4月には必ず消費税を10%に引き上げると公言する。

 もともと消費税の増収分は社会保障の充実にあてられるのが建前だった。だが、消費税を5%から8%に引き上げたことによる増収見込み5兆円のうち、社会保障に振り向けられたのは1割の5千億円にすぎない。15年度の概算要求額も消費税10%を当て込んで膨らみ、総額が過去最高の101兆円に達した。国土交通省、防衛省、経済産業省など軒並みの増額だ。

 一方、安倍政権は、年金の0・7%削減、70〜74歳の医療費患者負担の2倍化などの社会保障の切り捨てを進めている。消費税の増収分を社会保障の充実に使うといううそがあからさまになった。

 では、消費税の税収はどこに行ったのか。消費税が導入された1989年度以降の消費税収の累計額(2013年度まで)は264兆円、同じ期間に法人税減税による減収分の累計額が246兆円。まさに消費税収は、法人税の減収の穴埋めにあてられてきたといえる。

 政府は、法人税の減収を他の法人課税で埋め合わせるとしているが、榊原定征・経団連会長は「来春の賃上げの環境整備として、実効税率を実質で下げる必要がある」と抵抗している。今回も、国民が批判を集中しなければ、結局は消費税の増収分で法人税減税が穴埋めされてしまう。

内部留保に課税を

 そもそもデフレをもたらした原因の一つは、グローバル企業が貯めこんだ莫大な内部留保だ。資本金10億円以上の大企業の内部留保は2013年度末で285兆円にのぼる。これは、国家予算(一般会計)の3年分にあたる。

 この一部だけでも賃上げや正社員の維持、関連企業に支払う下請単価の改善などにあてていれば、これほどの購買力低下はなかった。内部留保に課税し大企業優遇税制を廃止すれば、消費税率の再引き上げなど必要ない。

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