2015年09月04日発行 1393号

【東電元会長ら強制起訴/裁判で責任追及、真相究明へ】

 7月31日、東京第5検察審査会は、東京電力の勝俣恒久元会長、武藤栄・武黒一郎両元副社長の3人について、起訴すべきとする2回目の議決を公表した。昨年7月に続くもので、3人は今後、裁判所が指定する検察官役の弁護士により強制起訴される。

 2012年に福島原発告訴団が勝俣元会長ら33人を業務上過失致死傷罪で福島地検に刑事告訴・告発したが、翌13年9月、検察は不起訴とした。その後、福島原発告訴団が東京電力旧経営陣6人に絞って検察審査会へ審査を申し立てたのに対し、東京第5検察審査会が14年7月に、3人を「起訴相当」と議決。東京地検が「再捜査」の後、今年1月、再び不起訴としたため、検察審査会が再審査していた。

 起訴相当議決は、11人の検察審査会委員のうち、3分の2を超える8人が賛成しなければ出すことができない。1回目と2回目の審査は別の審査員が担当するので、22人の審査員のうち16人以上が、東電を起訴し責任を問うべきと判断したことになる。

 JR福知山線脱線事故に続いて、検察が免罪しようとした巨大企業犯罪の責任者を市民が再び刑事裁判に引きずり出した意義は大きい。

万が一の津波にも備えよ

 そもそも、政府の地震調査研究推進本部(推本)の津波試算結果や「福島県沖で大地震が発生する恐れが否定できない」とする大学教授の指摘に基づいて、東電は2008年、明治三陸地震並みの津波が福島県沖で発生した場合に、福島原発敷地で最大15・7メートルの高さになる恐れがあるとの試算をまとめていた。福島第一原発タービン建屋は高さ10メートルであり、予想通りの津波が襲来した場合、タービン建屋を大きく超える。これとは別に、非常用海水ポンプが水没するとの推定も09年には東電社内でとりまとめられていた。こうした試算結果が具体的な社内資料として、東電幹部の間で広く共有されていた事実もある。

 議決はこうした事実に基づいて、試算結果を「原子力発電に携わる者としては絶対に無視することができないもの」とした。「放射能が人体に及ぼす多大なる悪影響は、人類の種の保存にも危険を及ぼす」と健康被害にも言及。「原子力発電に関わる責任ある地位にある者」であれば「万が一にも重大で過酷な原発事故を発生させてはならず…備えておかなければならない高度な注意義務」があるとした。東電には具体的な津波の予見可能性があり、津波対策を検討している間だけでも福島第一原発の運転停止を含めた結果回避措置を講じるべきだったと結論づけた。

 その上で、東電の3人の責任者について「適正な法的評価を下すべき」として、起訴相当と議決した。

 検察審査会はまた、武藤副社長が推本の評価を無視していた事実を指摘。事故当時の東電が「原子力発電所の安全対策よりもコストを優先する判断を行っていた」と、東電の「命よりカネ」の企業体質を厳しく批判した。

 今回、新たに判明した事実もある。グループ会社である東電設計がまとめた最大13・6メートルの津波予測を、東電が08年に受け取っていた。国の調査機関である推本のデータも東電設計のデータも、自分たちにとって都合が悪ければ無視―議決書から東電の傲慢な企業体質が見える。

厳しい検察批判

 検察は、審査会の1回目の起訴相当議決の後も、東電を免罪するための証拠ばかり収集する不当な「再捜査」を行い、言い訳を並べ立てて不起訴とした。審査会は、こうした検察の姿勢についても「何の説得力も感じられない」「事柄の重大さを忘れた、誤った考えに基づくもの」と厳しく批判。改めて、原子力ムラの代理人と化した検察の姿が浮き彫りになった。

 今年4月の福井地裁による高浜原発3・4号機運転差し止め仮処分決定に続き、今回の強制起訴は政府・電力会社と原発推進勢力に打撃を与えた。国策として原発を推進しておきながら、政府は事故が起きても守ってくれず、自分たちが被疑者として法廷で責任を追及されるとなれば、電力会社の中に再稼働をためらう動きが出る可能性もある。市民と被災者の闘いが原発廃炉への道を切り開いている。

 すべての損害賠償訴訟と強制起訴裁判、反原発の闘いを結び、東電の責任追及、事故の真相究明とともに全原発廃炉を実現しよう。

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