2016年08月19・26日発行 1441号

【改憲案は出る前につぶす/国会を監視し改憲派に抗議を】

 参院改憲派3分の2を受け、安倍政権は戦争法発動・改憲へと加速する。秋の臨時国会でさっそく憲法審査会の議論を開始する構えだ。改憲には国民投票で過半数の賛成を得る必要があるが、国民投票法は初めから改憲案を成立させるための仕組みが組み込まれた法律だ。改憲案は出る前につぶさなければならない。

 安倍自民は改憲派衆参3分の2超の国会構成を受け、改憲派のとりまとめにうごめきだした。民進党岡田代表は、違憲立法審査権拡充も改憲のテーマと述べた。民進党はもともと「護憲」を掲げる政党ではなく、改憲反対世論に押され「安倍政権の下で改憲論議に加わらない」としていた。民進党代表選出馬を表明した蓮舫代表代行は「憲法審査会が動いたら積極的に参加する」と述べる。

 改憲は憲法審査会を経て、国会の3分の2の賛成を得ても、まだ、国民投票で過半数の賛成を得るというハードルは残る。しかし、このハードルは決して高くない。国民投票法自体がハードルを引き下げているからだ。

低投票率でも有効

 国民投票法は、国民投票を有効とする最低投票率を設定していない。投票率がどれだけ低くとも有効。普段の選挙と変わらない。そして、憲法改正要件である「過半数の賛成」の分母を白票・無効票を除く「有効投票数」とした。投票率が低ければ低いほど、少ない賛成票数で改憲が強行される。もし投票率が40%を切れば、国の根幹をなす憲法が全有権者の1割台の賛成票で破壊されることとなる。

 投票方法は、発議された「憲法改正案ごとに1人1票」だ。「改正案」が複数の条文にわたったときに何が起こるか。公明党は「環境権・プライバシー権」を新設し、「国防軍保持」を明記する。おおさか維新改憲案の看板は「教育無償化」だ。それぞれをテーマとする運動団体間に分断が持ち込まれる。それが改憲派の狙いだ。

 国民投票の結果についての不服申し立ても形ばかりだ。投票無効訴訟の管轄裁判所は東京高裁に限定されている。訴訟提起によっても、投票結果の効果は停止せず、無効の判決が出ても再投票となるだけである。

知らせずに決める

 議会の改憲案発議から投票までは、最短60日、最長で180日しかない。しかも、国民投票公報(改憲案、新旧対照表、国会での賛成・反対意見を印刷したもの)の配布は「国民投票の期日前10日」だ。放送や新聞による広報については、実施時期すら定められていない。つまり有権者が印刷物となった改憲案を一文一句じっくりと吟味し、その賛否を検討する期間は最短10日。条文が増えれば増えるほど、正確な判断は困難となる。

 改憲案の広報は「国民投票広報協議会」が担う。同協議会は衆議院・参議院それぞれから、各党の議席数に比例して人数が割り振られる。改憲案が発議されるということは、両院とも改憲派が3分の2を占めており、協議会の委員数も改憲派が同様の割合で構成される。改憲派主導の協議会が広報を遅らせれば遅らせるほど改憲派は有利だ。

 改憲案についてきわめて短い周知期間しかおかず、必要な情報を伝えないまま投票に持ち込むという魂胆だ。

言論を封殺

 改憲案の賛否を呼びかけることを「国民投票運動」と呼ぶ。一般市民によるテレビ・ラジオを使った改憲案への「国民投票運動」は投票14日前から禁止だ。以降は、協議会による広報のみとなり、放送で意見表明できるのは国会に議席を持つ政党・政治団体およびそれらが指定した団体に限られる。国民の意見表明権は大幅に制約される。

 裁判官や警察官には罰則付きで一切の国民投票運動を認めない。その他の公務員(独立行政法人や地方独立行政法人を含む)や教育者(国公立・私立を問わず、幼稚園・認定子ども園から大学院まで)の「地位利用」による運動を禁止した。「地位利用」の詳細は定められていない。

 昨年の公選法改正で18歳以上に選挙権が付与され、国民投票権も2018年から18歳以上に与えられる。選挙権の引き下げに伴い文部科学省は昨年10月「教員の政治的中立確保」を徹底させる通知を発した。7月参院選を前に自民党は「学校教育における政治的中立性についての実態調査」のサイトを立ち上げた。ネット上で「政治的中立を逸脱するような不適切な事例」を募るアンケートだ。政府・自民党一体となった教育への政治介入だ。このような恫喝(どうかつ)を背景とした「地位利用の禁止」は、権力者の意に沿わない憲法教育は「違法の国民投票運動」とされかねないと教員の自己規制を招き、権力サイドの洗脳教育を容易にする。

 メディア規制も重大だ。テレビ・ラジオの放送事業者は国民投票に関する放送について放送法第4条に留意するようにとわざわざ規定している。同条は「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないですること」と定める。自民党は、本来政治権力者から報道の自由を確保するための放送法の規定を逆手にとった。高市総務大臣は「憲法9条改正に反対する内容を相当の時間にわたって放送した場合、電波停止になる可能性はあるのか」との質問に対し、「将来にわたって罰則規定を一切適用しないことまで担保できない」と答えた。

 国民投票法は「偏向教育」「偏向放送」のレッテルで圧力をかけ権力の意のままにする、黙らせるといった教育・言論統制法の側面を持つ。

 改憲発議に向けたあらゆる動きに反撃し、改憲案は、出される前につぶそう。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS