2016年09月23日発行 1445号

【安倍が狙う「駆けつけ警護」/9条改憲の突破口に“衝突”を期待!?/憲法を変えるために戦争をする】

 安保関連法(戦争法)で可能になった「駆けつけ警護」の実施に前のめりな安倍政権。この新任務を、11月に南スーダンPKO(国連平和維持活動)に投入される陸上自衛隊の交代部隊に課そうとしている。危険な場所で危険な任務をさせる狙い。それは戦争の既成事実化にほかならない。すべては憲法「改正」を進めるためなのだ。

交戦必至の「新任務」

 安倍晋三首相が強い意欲を示し、自衛隊の新任務に盛り込まれた「駆けつけ警護」。政府の説明では、PKOなどに参加する自衛隊が、窮地に陥った他国の軍隊やNGO関係者から救助要請を受けた際に、武器を持って助けに行く行為だという。「宿営地の共同防衛」も法改正で可能になった。これは武器を用い、他国軍とともに宿営地を攻撃から守ることをいう。

 憲法9条は国際紛争を解決する手段としての武力行使を禁じている。そこで日本政府は「隊員の正当防衛や緊急避難ための『武器使用』は憲法が禁じた『武力行使』にはあたらない」いう解釈を発明。PKOなど海外派兵時の「武器使用」もこの理屈で正当化してきた。

 安保関連法の成立によりPKO派兵の際の武器使用基準が「緩和」され、「駆けつけ警護」などの任務遂行を妨害する相手を排除する場合も認められるようになった。ただし「国または国に準ずる組織に対する組織的・計画的な戦闘行為」は今も認められていない。それは「武力行使」にあたるというのが現在の政府見解である。

 よって、「駆けつけ警護」等の場合であっても、相手が盗賊やテロリストであることが明らかでなければ武器は使えないことになっている(法的には)。派遣国・周辺国の政府軍や現地の警察など「国または国に準ずる組織」が攻撃してきても、自衛隊は組織的に応戦できない(くどいようだが、法的には)。

 こうした法的枠組みに則って「駆けつけ警護」等の任務を無事行うことが、内戦状態の南スーダンで可能なのだろうか。まず、無理であろう。正当防衛のレベルでは済まない組織的戦闘、すなわち違憲の武力行使に発展することは目に見えている。なし崩し的に、殺し殺される事態に突入するということだ。

撤退せず戦地に残留

 南スーダンは今、再び内戦状態に陥っている。昨年8月にいったんは停戦合意が成立し統一政府が発足したものの、この7月に政府軍と反政府軍の銃撃戦が首都ジュバで発生。各地で武力衝突が相次いでいる。国連が管轄する避難民の保護センターに逃れてきた住民に政府軍が発砲する事件まで起きた。政府軍・反政府軍とPKO部隊が交戦する事態がいつ生じてもおかしくないのである。

 それなのに、安倍政権は「国または国に準ずる組織」が敵対者として登場しない状況を無理やり設定し、「駆けつけ警護」等の新任務を課そうとしている。そもそも、PKO法が定める参加原則の柱である「紛争当事者間の停戦合意」がとっくの昔に崩壊している事実を頑なに認めようとしない。「武力紛争ではなく発砲事案」という詭弁を弄してまでも、南スーダンという戦地に自衛隊を残しておきたいらしい。

既成事実の追認狙う

 日本政府がここまで南スーダンPKOに固執するのはどうしてなのか。悲願の国連安保理常任理事国入りへ実績を作りたい、南スーダンの石油利権に食い込みたい、アフリカにおける日本の政治的発言力を高めたい(対中国)など、理由はいろいろあるだろう。だが、安倍首相にはもっとよこしまな狙いがある。それは9条改憲の突破口に利用したい、ということだ。

 安倍政権は現在、「緊急事態条項」の追加など世論の合意を得やすい項目から憲法「改正」を進めていく意向のようだ。とはいえ、戦争国家を完成させるには9条改憲を避けては通れない。戦争勢力にとって、いつかは越えなければならない壁である。

 だが、「戦争放棄」の9条に手をつけることに対しては、多くの人びとが強い警戒心を抱いている。何とか改憲発議にまで持っていっても、国民投票で敗れたら元も子もない。政権は退陣だろうし、何より国民の信任を得た9条を変えることはますます難しくなる。絶対に負けられないリスキーな一発勝負と言ってよい。

 では、「必勝法」はあるのか。一つだけある。自衛隊が交戦し、死者まで出ている既成事実を作ってしまえばいいのだ。時の政府が「戦争をしたいので憲法を変えます」と言うのであれば、誰もが激しく反対するに違いない。しかし、戦争が先に起きてしまえばどうだろう。憲法9条は事実として完全に機能していないことになる。後はその既成事実を追認させるだけでよい。改憲のハードルは著しく下がるという寸法だ。

 憲法を変えるために戦争をする―正気の沙汰とは思えないが、安倍政権はその機会をうかがっている。連中は人の命が失われることなど気にもしていない。   (M)



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