2016年11月04日発行 1451号

【未来への責任(211) 朝鮮人軍夫遺骨問題で厚労省交渉】

 2016年10月12日、太平洋戦争被害者補償推進協議会による第3回韓国人戦没者遺骨問題厚労省交渉が行われた。

 要望書では、今年成立した「戦没者遺骨収集推進法」が、対象者を「我が国」(日本)と限定したことに、遺族は「怒りと失望を覚えました」と厳しく批判した。そして、審議過程で塩崎厚生労働大臣が「遺族の気持ちは国境に関係なく同じである。韓国政府からの具体的提案があれば…適切な対応を検討する」と述べたことの誠実な実行を求めた。

 現在厚労省は、沖縄本島4地域(平川<ひらかわ>・幸地<こうち>・経塚<きょうづか>・真嘉比<まかび>)から出土した遺骨の鑑定を行い、その地域に関連する軍と一般県民被害者に鑑定の呼びかけを行っている。この呼びかけの中には、現在、韓国人遺族は含まれてないが、解決されねばならない問題がある。

 まず、沖縄へ動員された朝鮮人軍属たちは政府の記録でも4000名を超える。その中心的な部隊である特設水上勤務隊(朝鮮人2650名、以下、水勤隊)が前述の4地域の関連部隊に入っていないのである。本島に展開した水勤隊は平川・幸地・経塚の戦闘に参加している。例えば、すでに関連する部隊に入っている62輜重(しちょう)隊(兵站<たん>業務)について、水勤隊が、その隊に編入された資料を提出した。厚労省はその資料は知らなかったとしてこれを受け取ったが、水勤隊の日本人も朝鮮人も、その4地域で戦没記録がないので関連する部隊には入れられないと説明した。

 水勤隊の朝鮮人軍属は、この4地域で戦没していないのではなく、死亡記録がないのだ。日本軍の記録を整理した「特水勤102朝鮮人不明者名簿」(1948年調製)には以下のようなメモ書きがある。「終戦時沖縄本島軍人はほとんど玉砕 軍夫は不明なれど、ほとんど戦傷病死したと思われる 大部分死亡か?」。つまり、死亡したと思うが、行方不明扱いだというのだ。

 厚労省は、私たちの追及に「行方不明の場合、連絡できない」と答え、「日本人の場合も同じ扱いだ」と弁解する。しかし、日本人は、どこで亡くなったかの死亡記録のない人はほとんどいない。DNA鑑定を通じて行方不明者を探すのが日本の責任であることを繰り返し要求した。70年間行方不明扱いで放置した朝鮮人軍夫の問題を避けてはとおれないことを、厚労省に強く認識させる交渉となった。

 この交渉を、韓国の聯合ニュース、ハンギョレ新聞は詳しく報道した。ハンギョレ新聞は、2月の日本の厚労大臣の肯定的発言の後、7か月間日本との交渉を行っていない韓国政府を強く批判した。また、韓国政府がすすめていた韓国人遺族のDNAバンクの予算が全額削減されたことも同時に報じられ、韓国政府の無策、やる気のなさが韓国国民に露呈した。

 私たちの継続した今回の交渉が、日韓の両政府の交渉へと発展する起爆剤になると信じている。

(「戦没者遺骨を家族の元へ」連絡会 上田慶司)

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