2016年11月11日発行 1452号

【沖縄・高江をめぐるデマ/世論操作は政権の動揺のあらわれ/「反対派が悪い」と安倍応援団】

 米軍ヘリパッド建設に反対する市民に機動隊員が差別発言を浴びせたことが報道されて以来、沖縄・高江をめぐるデマ言説がいっそう激しくなっている。「反対派も警察官に暴言を吐いている」「沖縄差別という捉え方は一面的」「反対派の中心は本土から来たサヨク。地元の人間は少ない」等々。安倍応援団による世論誘導を検証する。

 日本政府が反対する市民を強引に排除してヘリパッド建設に着手した際、沖縄の地元紙は号外まで出して「国の横暴」を訴えた。同じ頃、東京発の全国ニュースが騒いでいたのは「ポケモンGO」の日本上陸だった…。

 このように、沖縄以外の地域でヘリパッド問題が話題になることはまずなかった。安倍政権は人目を気にせず反対運動の弾圧を行うことができたのだ。だが、今回の差別発言はさすがに全国ニュースでも大きく報道された。「高江で起きていること」の一端が明るみに出たのである。

 そこで世論操作が必要となる。「悪いのは反対派。ヘリパッド建設は正しい」という印象を植え付けるべく、御用メディアをはじめとした安倍応援団がこれまで以上の熱心さでデマを振りまき始めた。

市民と警察を同列視

 最初のデマは「差別発言はよくないが、市民側も警察に暴言を吐いている」というもの。大阪府の松井一郎知事や作家の百田尚樹らが唱えている。沖縄でも自民党県議団が「機動隊員の暴言は『市民の挑発』が原因ではないか」と主張。県議会が目指した全会一致での抗議意見書採択をつぶす口実にした。

 御用メディアは「悪いのは反対派」とする報道をくり返している。その典型例が『週刊新潮』11月3日号の特集記事である。グラビアとトップ記事を使って、反対派市民の「暴言、暴行、不法行為」を列挙してみせた。

 高江の現場で、市民側が荒い言葉で機動隊に抗議したり、怒りの声をぶつけているのは事実である。しかし、逮捕権など圧倒的な権力を持ち、威圧的にふるまう警察官と、非暴力で抗議する市民を同列視することはできない。公務中の公務員が市民を差別語で罵倒するなど言語道断だ。

 機動隊員が発した「土人」「シナ人」発言は、公的機関が「人種差別を助長しまたは扇動すること」を禁じた人種差別撤廃条約に違反する。同条約4条C項は「国または地方の公の当局または機関が人種差別を助長」しないことを求めている。機動隊員をかばい、ねぎらいの言葉までかけた松井知事は首長失格というほかない。

「地元は賛成」の嘘

 「反対しているのは本土からきた活動家だけ」−−これも御用メディアが得意とするデマだ。前述の『週刊新潮』記事は「特徴的なのは運動に“地元の声”がほとんど聞こえないこと」という「沖縄県警関係者」の声を紹介。「職業的な活動家たち」がわざと過激な闘争に仕立て上げているように見えると書いた。

 高江の住民を愚弄するひどいデマだ。高江区は1999年と2006年、住民総会でヘリパッド移設反対を決議している。TBS『報道特集』が先日実施した住民アンケート結果をみても、74・4%が「反対」と答えていた(10/22放送)。長時間に及ぶ抗議行動には農作業のため参加できないが、建設には反対という人が圧倒的に多いのである。

 そもそも、人口140人の集落に全国から機動隊員600人を投入して建設工事を強行しているのは安倍政権ではないか。国家権力の暴走を食い止めようと、志を持った人が現地に駆けつけることの何がいけないのか。戦争政策との闘いに「地元」「地元外」の区別などない。

「国家の敵」への憎悪

 最後に「沖縄への差別ではない」論について。前述の自民党沖縄県議団は「機動隊発言は県民全体ではなく抗議運動参加者への言葉だ」として、沖縄への侮辱と捉えての抗議には賛成できないとした。

 なるほど、まだ20代の機動隊員が「土人」という言葉の歴史的背景を理解した上で発言したとは考えにくい。沖縄差別の事例としてよく語られる人類館事件(注)など知らなかったであろう。しかし映像を見ればわかるが、彼は対峙する市民に憎しみの感情をぶつけている。「お前など対等な人間じゃない」と見下す意図をもって「土人」と罵倒したのである。

 これは一個人の心性の問題ではない。警察内部では「左翼」や市民運動活動家、在日外国人などを「国家の敵」とみなす教育が徹底的に行われている。彼らへの憎悪や差別感情を警察官に刷り込むことによって、どんなにひどい弾圧でも実行できるようにするのである。そう、軍隊の洗脳教育と同じだ。

 沖縄も安倍政権に逆らったとみなされ、「国賊」認定されたに違いない。事実、警察内部だけで読める『BAN』という雑誌をみると、極右文化人が沖縄ヘイトの言説を撒き散らしている(10/26ニュースサイト「リテラ」)。こんなネトウヨ本まがいの出版物から情報を仕入れているのだ。高江に投入された弾圧部隊から差別発言が飛び出すのは必然だったといえる。

 国策に従わない者は差別と憎悪の対象に仕立て上げられる−−何とも恐ろしい話だが、今回の事件はこの国が戦争国家の道を歩んでいることをあらためて浮かび上がらせた。

  (M)

(注)1903年、大阪で開かれた第5回内国勧業博覧会の会場で「琉球人」やアイヌ、朝鮮人や台湾先住民らが「7種の土人」として見世物的に「展示」された事件。



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