2017年03月10日 1468号

【戦時法制の整備急ぐ安倍政権 共謀罪の対象は全市民】

 共謀罪法案の閣議決定が3月10日にも狙われている。「一般市民には適用されない」など、うそとごまかしを連発する安倍政権。秘密保護法、戦争法に続く戦時法制づくりに拍車をかけている。すべての市民を監視対象とし、平和と民主主義、人権を守る運動の抑え込みをもくろむ現代の治安維持法=共謀罪の国会提出を阻止しよう。

大きく変えた答弁

 安倍晋三首相が「共謀罪と呼ぶのはレッテル貼りだ」と反論する「テロ等準備罪」創設の組織犯罪処罰法「改正」法案。「犯罪を犯すことを目的とした集団」に限定したとして「一般市民は対象外」と繰り返し、過去3回廃案となった共謀罪法案とは別物と答弁してきた。だが、それも大きくトーンダウン。これまでの共謀罪と変わらない姿がより鮮明となってきた。

 安倍は、2月17日の衆院予算委員会で「(団体の)目的が正常だったとしても、その段階で(犯罪目的に)一変している以上、組織的犯罪集団だと認めるのは当然」と居直った。市民団体を組織犯罪集団と見なすこともあるとの答弁は、過去の共謀罪審議時の政府答弁と何ら変わらない。

 「目的が一変する」ことについて、金田勝年法相は21日の閣議後、1回の準備だけでは犯罪を実行する目的に変わったとは言えないとの見解を明らかにした。1回だろうが2回だろうが、権力の勝手な判断で共謀罪を犯罪組織集団以外にも適用する意図は全く同じだ。

 例えば、基地建設に反対する市民団体が工事車両を止めようと1度ならず決定すれば、「組織犯罪集団に一変」と決めつけることができる。威力業務妨害罪は刑法では3年以下の懲役だが、組織犯罪処罰法では5年以下の懲役とされ、共謀罪創設の対象犯罪となる。

 政府は、禁固・懲役4年以上の犯罪676に対し共謀罪新設を検討していたが、277に見直し、与党との調整に入っている。これもまた、過去の対応と同じだ。09年に廃案になった3度目の共謀罪法案の時は、対象犯罪619だったものを116に絞り込んで矛先をかわそうとした。数の問題ではない。1件たりとも認めてはならない。刑法の原則を大きく歪めるからだ。

「共謀罪」成立

 そもそも、特定の行為を犯罪として刑罰を科すことができるのはなぜか。それは、社会に不利益を与えた(生命・財産など法により保護される権利・利益が侵された)ことを罰し、その程度に応じて償わせるためだ。実行した結果に対する責任を問うこと、これが刑法の原則である。

 犯罪に至る過程を、決意(共謀)、予備(準備)、未遂、既遂の段階に分けて考えてみる。刑法は「既遂」を処罰し、例外的に「未遂」を、さらに例外中の例外として「予備」に罰を設けている。共謀罪は、犯罪を実行しようと2人以上が相談(共謀)した段階で罪に問う。実行もせず、準備もしていない段階でだ。決意した者が必ず犯罪を行うのであれば、早い段階でその芽を摘むとも言えるが、実際は、決意しても準備に入らないことも多い。当然実行もされない。だが、いったん成立した共謀罪は、その後意思が変わったとしても犯罪となり、処罰対象とできる。これは、刑法の原則を根本的に変えることになる。

 社会に不利益がなくても「心の中で思っただけ」で処罰対象とする。内心の自由を脅かすものだ。

すべての市民を監視

 共謀は電話やメールなどでも認定されるのか。衆院予算員会分科会(2/23)での質問に、金田法相は「特段、限定をしない前提で検討している」と答弁した。つまり、会議など対面での合意がなくても共謀罪が成り立つことになる。例えば、市民団体のメーリングリストに工事車両を止める座り込み行動のスケジュールが配信された。ただちに異議を表明しなければ、合意したことになると言う。組織的威力業務妨害罪の共謀容疑で、警察はメールをチェックし、リストの入手を行う。

 これは極端な例ではない。昨年12月、通信傍受対象が拡大され、警察施設での傍受が可能となった。すでに警察の違法捜査は、GPSによる監視、盗撮カメラの設置などやりたい放題になっている。共謀罪の捜査の名目が付けば、あらゆる団体、個人を合法的に監視できるようになる。

 共謀罪は、政府に異を唱える市民、団体の活動を抑え込むものだ。同時にその存在は、すべての市民が自由に考えごく普通に発言することを萎縮させ、封じ込める。

 戦前、戦争に反対する人びとを虐殺し、団体を壊滅させ、物言えぬ軍国主義国家をつくり出した治安維持法。共謀罪法は「現代版治安維持法」と呼ぶにふさわしい。



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