2017年04月07日 1472号

【「残業100時間」を談合決定 過労死水準を追認 年間960時間もOKの安倍】

 3月13日、経団連榊原会長と連合神津会長は首相官邸を訪れ、時間外労働の上限規制に関する両者の談合結果を安倍首相に報告した。

 その内容は、「年間720時間を前提」としつつ、「2〜6か月の平均80時間」かつ「月100時間」を上限とし、「月45時間を超える時間外労働は6か月までとする」というもの。「月100時間」について、連合は「未満」という表現にこだわり、経団連は「未満は受け入れられない」。結局「100時間を基準値」で合意と報告した。

 報告を受けて、安倍は「ぜひ100時間未満とする方向で検討していただきたい」と述べ、これで決着が図られることとなったと報道された。

 全く下手くそな茶番劇だ。

官邸・財界・連合の茶番

 そもそも、「月45時間、年360時間を限度時間とすることを法律に書き入れ、繁忙期などの特別な場合は上限を1か月100時間、2か月平均80時間、年720時間とする」という骨子案を示したのは「働き方改革実現会議」の「事務局」=官邸である。

 これは安倍政権と財界が準備した土俵だった。そこに連合をのせて相撲を取らせた。労働時間の計算は1分単位で行う。100時間の経団連と99時間59分OKの連合に何の違いもない。安倍が連合に軍配を上げるポーズをとったにすぎない。

 安倍は官邸と財界で労働時間規制の内容をつくり、連合を労働者代表として「労使合意」を演出。最終的に自らが裁定を下した。一連の過程をマスコミに報道させ、「100時間未満」があたかも決定事項のように取り扱わせた。これでは労働政策審議会は単なる追認機関になってしまう。

 昨年10月27日「労働政策審議会のあり方を見直す検討会」第4回会合で、法政大学大学院教授の小峰座長が「3者構成を一切考えない(労政審の)あり方もあり得るのではないか」と述べるなど安倍首相の労政審解体を後押ししている。ILO(国際労働機関)の公労使3者構成の原則を守り、厚生労働大臣による労働者代表の恣意的な任命を許さない闘いは急務だ(現在の労政審10人の労働者代表委員はすべて連合)。

休日労働でさらに長時間に

 残業時間の上限規制に関する首相官邸での「合意」は、3月17日第9回働き方改革実現会議に提案され、そのまま「了承」された。

 この残業時間の「上限規制案」に、さらに重大な「抜け穴」があることが浮上している。規制案では、残業は「月45時間、年360時間」を原則とし、繁忙期には「年720時間」まで認める。働き方改革実現会議ではこれらの時間に「(法定)休日労働」を含めないことが提案され、了承された。

 つまり、規制は「2〜6か月の平均がいずれも月80時間以下」「月100時間未満」だけとなるため、12か月連続で月80時間、年960時間まで働かせることが可能になる。

 「月45時間、年360時間」、繁忙期でも「年720時間」は規制力を失ってしまう。

 塩崎厚労相や加藤働き方改革担当相は、国会でこの問題の追及を受け「検討する」としていたが、結局、年間の上限規制などで(法定)休日労働は除外されてしまった。

 まさに死ぬまで働かせるという安倍・経団連・連合タッグの姿が浮き彫りとなった。

「命のルール」に特例

 安倍は3月17日、残業上限規制で「運輸業と建設業への適用を猶予する」と表明した。

 15年度の脳・心臓疾患の労災認定請求数第1位は運送業で181件(内認定96件)、2位は建設業111件(内認定28件)。15年度に厚生労働省が支給決定した脳・心臓疾患による労災件数計251件の約3割79件がトラック運転者だ。賃金が低く労働時間が長い運送業の時間外労働の規制は緊急課題である。しかし、安倍は東京五輪優先で運輸・建設労働者を死に追いやるのだ。

 過労自殺した元電通社員の高橋まつりさんの母、幸美さんは「人間の命と健康にかかわるルールに、このような特例が認められていいはずがありません。繁忙期であれば、命を落としてもよいのでしょうか」と憤る。

 「抜け穴」のない月45時間年間360時間上限規制を譲ることはできない。

 
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