2017年04月07日 1472号

【籠池証人喚問の衝撃/大失敗に終わった幕引き策動/「かなりの嘘つき」は安倍のほうだ】

 火消しのはずが火に油を注ぐ結果に−。森友学園・籠池泰典理事長の証人喚問は安倍晋三首相にとって大誤算であった。籠池理事長が語った新証言により、昭恵夫人と学園のずぶずぶの関係が明らかになり、学校用地の取得交渉にも関与していた「口利き疑惑」が浮上したからである。政権を揺るがした籠池証言のポイントをみていこう。

大慌ての自民・維新

 自民党は案の定、「籠池証言は信憑(しんぴょう)性が乏しい」と印象づける戦術をとってきた。一番多くの時間を割り当てられながら、疑惑の真相を解明する気はさらさらなく、証人を挑発し偽証と詐欺での立件を狙う質問を連発した。

 高村(こうむら)正彦副総裁は「(証人喚問で)明らかになったのは、籠池さんという方が、かなりの嘘つきであるということだけだ」と発言(3/24)。二階俊博幹事長も「立派な人ではないのは誰が見ても分かる」と同調した。ということは、安倍首相は「誰が見ても分かる」「かなりの嘘つき」を、つい最近まで「私の考え方に非常に共鳴している方」(2/17衆院予算委)と評価していたことになるのだが…。

 マヌケだったのは、維新の会・下地幹郎衆院議員の質問である。親分の松井一郎大阪府知事を批判されて逆上したのか、「松井さんはあなたが学校をできるようにはしごをかけて、はしごから落ちたのはあなた自身なんですよ!」と言い出した。これって、松井が学校認可の便宜を図ったという意味か。壮絶な自爆としか言いようがない。

 自民・維新のあわてぶりは籠池証言の衝撃度を物語っている。今回の証人喚問で新たに語られたのは、「昭恵夫人から寄付金100万円を受け取った際のやりとり」「口止めともとれる昭恵夫人からのメール」「小学校設置の規制緩和を依頼した政治家の名前」「親しい府議会議員を通した松井知事への働きかけ」など多岐にわたる。

 なかでも注目されたのが、「内閣総理大臣夫人付」の政府職員が籠池理事長に送ったファクスだった。

口利きの物証発覚

 籠池証言によると、国有地の買い上げについて「私たちの教育理念に賛同している昭恵夫人に助けをいただこうと考え」、携帯電話に連絡を入れた。留守電だったが後日、首相夫人付職員から「財務省本省に問い合わせ、国有財産審理室長から回答を得た。本件は昭恵夫人に報告済み」とのファクスが送られてきたという(15年11月)。

 内容は「現状では希望に添うことはできない」というもの。ただし、学園が立て替えたごみ撤去費について「一般的には工事終了時に精算払いが基本だが…平成28年度(16年度)での予算措置を行う方向で調整中」とあった。実際、16年度予算成立からわずか8日後(4月6日)に約1億3千万円が返金されている。

 つまり、昭恵夫人は間接的ではあるが財務省に働きかけ、森友側に有利な回答を引き出していたのである。これが口利きでなくて何であろう。暴露に慌てた政府は「回答は職員の判断で出した」(菅義偉(すがよしひで)官房長官)と弁明しているが、一役人が何の指示もなく動くはずがない。証人喚問で嘘つきがばれたのは、「私も妻も事務所もまったく関与していない」と言い張る安倍首相のほうなのだ。

大物財界人との接点

 ここからはメディアがあまり注目しない部分をみていきたい。愛知県の海陽学園への推薦枠について質問された籠池理事長は、JR東海の葛西敬之名誉会長の名前を口にした。15年6月に面談した際、「そういう学校ができるのなら、ぜひ入学させてあげたい」と言われたというのだ。

 葛西が代表者を務める海陽学園は、トヨタ自動車、JR東海、中部電力など中部財界が「エリート養成校」として設立した中高一貫校である。国鉄の分割民営化を推進し、数々の政府委員を歴任してきた葛西は、安倍首相の後見人と言われている。日本会議の一員で、産経新聞の「正論大賞」を受賞した極右論客でもある。そんな「大物財界人」と大阪の中小私学経営者に何の接点があるのか。それはやはり極右人脈であろう。

 すでに籠池理事長と関西財界とのつながりは一部メディアで報道されていた。彼は自衛隊の協力団体「関西防衛を支える会」(特別顧問は稲田朋美防衛相)の会員だった。同会の初代会長を務めた経営者が塚本幼稚園の軍国主義教育を支持・宣伝したため、多く会員から寄付金が集まったという(AERA3/27号)。

 籠池理事長は参院での冒頭陳述で「多くの皆様のご期待を受けて舞い上がっていた」と語った。確かにそうだろう。園児に教育勅語を唱和させれば、大物政治家や財界人が感激してくれて、悲願の小学校設立に向けて多額の寄付金が集まったり、役所から様々な「優遇」措置を受けることができたのだから。

 今回の証人喚問では森友学園の教育内容への追及がなかった。だが、森友、安倍政権、維新府政は教育でつながっている。安倍、維新が目指している「国のために命を捨させる教育」を籠池理事長は実践してきた。だから行政から厚遇されたのだ。国家私物化による極右優遇−−森友疑惑の核心はここにある。 (M)

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