2017年04月28日 1475号

【LINEもできない共謀罪/市民生活を警察が監視/安倍が狙う「物言えぬ社会」】

 共謀罪の本当の恐ろしさは警察による市民監視が広がることにある。「合意」の証拠集めを口実に、盗聴捜査の拡大や密告の奨励などが進むことは目に見えている。警察の監視を常に意識せざるを得ないとなれば、人びとは身の回りから「政治的」な言動を遠ざけるようになる。そうした萎縮効果こそが安倍政権の狙いなのである。

「既読スルー」も合意

 犯罪の実行や具体的準備がなくても、2名以上の間で犯罪に関する「合意」が認められた場合に逮捕・処罰できる共謀罪。相談すること、合意することが罪になる。人びとの日常的なコミュニケーションそのものが警察の捜査対象になるということだ。

 では、警察は何をもって犯罪計画の合意がなされたと判断するのか。金田勝年法相は「手段を限定するつもりはない」と言明した(2/27衆院予算委)。人が集まって顔を合わせる場面に限らず、電話やメール、無料通信アプリLINE上のやりとりでも「合意が成立することはありうる」と言うのである。

 ということは、「基地建設工事に反対する座り込みをやろう」、あるいは「電力会社を包囲し、原発再稼働に抗議しよう」といったツイートに「いいね」と反応しただけで、組織的威力業務妨害罪の共謀罪容疑で逮捕されかねない。LINEなら「既読スルー」でも合意したとみなされる可能性がある。

 金田法相はまた、LINEやフェイスブックなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)全般が通信傍受捜査の対象となるとの認識を示した。インターネット上のコミュニケーションツールすべてに監視の網をかけるつもりなのだ。

 政府は現在、共謀罪を盗聴法の対象犯罪にすることは「ただちに考えていない」と説明している。だが、起きてもいない犯罪の計画や合意の証拠を見つけるために最も有効な方法は盗聴や通信傍受による日常的な監視である。潜入捜査や司法取引による密告の奨励も考えられる。

 産経新聞は「(共謀罪)法案の創設だけでは効力を十分に発揮することはできない。刑事司法改革で導入された司法取引や対象罪種が拡大された通信傍受の対象にも共謀罪を加えるべきだ」(16年8月31日付「主張」)と唱えている。安倍政権の本音はここにあるとみてよい。

大垣の市民監視事件

 共謀罪が導入されたならば、警察はターゲットとなる市民団体や労働組合などの活動を常に監視し、不穏とみなす動きがあれば共謀罪容疑をでっちあげて弾圧するようになるだろう。「独裁国家じゃあるまいし信じられない」という人は以下の事例を知ってほしい。警察による市民監視はすでに行われている。

 たとえば、風力発電施設の建設に反対する住民を公安警察(岐阜県警大垣署警備課)が監視し、収集した情報を中部電力の子会社に提供していた事件である。警察は反対派住民の勉強会が始まったことを問題視し、会を主催した人物の個人情報を同社に教えていた。「つながるとやっかい」として、勉強会とは無関係の市民運動家の実名や健康状態まで伝えた。

 勝手に病歴を漏らされたAさんは、風力発電の問題はほとんど知らなかったのに、警察が自分の名前を挙げていたことに驚いたという。ちなみに、この問題を国会で追及された警察庁警備局長は「通常行っている警察業務の一環」と答弁した(15年6月)。盗人猛々しい居直りとはこのことを言う。

 昨年6月の参院選期間中には、野党統一候補を支援する各団体の事務所などが入る建物の敷地内に大分県警別府署が隠しカメラを設置していたことが発覚した。出入りする人物の顔や車のナンバーを盗撮していたのである。市民団体「平和をめざすオールおおいた」のメンバーは「別府署の事件は、共謀罪が成立した後の日本の姿だ」と批判する(3/22朝日)。

 共謀罪が導入されたあかつきには、このような市民監視が犯罪捜査の名目で大々的に行われることが予想される。個人のプライバシーが国家に筒抜けになる監視社会の扉が開かれるのだ。

萎縮効果で支配

 電話やメール、SNSは警察に盗聴されているかもしれない。直接会って話すケースでも、その相手が警察にたれ込むかもしれない。これでは社会全体に疑心暗鬼が生まれ、自由にモノも言えなくなる。とりわけ、既存の法律や制度に異を唱えることや、政府批判と受け取られかねない言動は避けるようになるだろう。

 政府や大企業の批判、戦争反対を口にしそうな人物がフェイスブックで「友達申請」してきても承認しない。LINEグループでそんな発言をする者がいれば「強制退会」だ。でなければ自分まで「組織的犯罪集団」の一員とみなされ、根こそぎ弾圧の対象になってしまう−。こんな世の中では社会的な運動を組織することは恐ろしく困難になる。それが安倍政権が期待する「共謀罪効果」なのだ。

 LINEもできない共謀罪。テロ等準備罪という「名は体を欺(あざむ)く」ペテンにごまかされてはならない。   (M)



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