2017年08月11日 1489号

【加計疑惑 閉会中審査/論点そらしを失敗させた安倍のウソ/国家戦略特区は私物化の道具】

 加計(かけ)学園問題をめぐり、政府側のウソと隠ぺい工作ばかりが目立った衆参予算委員会の閉会中審査(7/24〜25)。それでも政府・自民党は局面打開の作戦を一応立てていた。「問題の本質は“加計ありき”ではない。岩盤規制の突破だ」と論点をすり替えようとしたのである。ま、失敗に終わったわけだが。

無理筋の虚偽答弁

 閉会中審査で最も注目を集めたのは安倍晋三首相の虚偽答弁だった。国家戦略特区を使った加計学園の獣医学部新設計画を認識した時期は「今年1月20日」と明言したのである。同学園が事業主体に正式に選ばれるまで「知らなかった」と言いたいらしい。

 信じがたい話である。今治市と愛媛県が国家戦略特区提案を申請したのは15年6月のこと。関係者の間では「今治=加計案件」は共通認識となっていた。特区諮問会議の議長を務める首相だけが「知らない」なんてありえない。安倍自身の過去の国会答弁とも矛盾している。

 もっとも、見え透いたウソでも言い張らねばならない事情が安倍にはある。彼にとって加計学園の加計孝太郎理事長は40年来の親友で、昨年夏以降だけでも6回もゴルフや会食を共にしている。この時点で加計の特区申請を知っていたと認めると、関係業者からの供応接待を禁じた大臣規範に自身が抵触することになってしまうのだ。

 無理筋の答弁で防衛線を張らねばならないほど安倍は追い詰められている。加計学園への便宜許与を示す証拠は山ほどあり、「加計ありきか否か」で論争しても勝目はない。そこで安倍擁護チームは論点のすり替えを図ろうとした。「獣医学部の新設制限こそが間違い」論である。閉会中審査に出席した安倍側の参考人たちは「規制改革」の必要性を口々に強調した。


謀略記事で意思統一

 自民党本部も7月20日、加計学園問題をめぐる産経新聞の連載記事(7/17〜20)を所属国会議員や都道府県連にメールで送信している。「閉会中審査の参考にしてもらうため」だという。

 記事の内容はどんなものか。1回目の見出しは「加計潰しに奔走する獣医師会/石破4条件で壁」。獣医学部の新設に猛反対する獣医師会は必死の政界工作を展開。地方創生担当相だった石破茂を懐柔し、獣医学部新設を困難にする「石破4条件」を策定させたとする筋書きだ。

 連載第2回には加戸(かと)守行・前愛媛県知事が登場。獣医学部の誘致は「地域活性化と公務員獣医師確保」をめざす地元自治体の悲願であり、加計学園による新設計画は願ってもない話だったと力説する。安倍政権の国家戦略特区によって道が開かれた。「行政が歪められたのではない。歪められていた行政が正されたのだ」というわけだ。

 そして最終回。取材チームの結論はこうである。「果たして安倍政権は行政を歪めたのか。むしろ歪めたのは獣医師会であり、文科省ではなかったのか。獣医学部問題の本質に踏み込まず、『安倍のお友達の加計を優遇したに違いない』という印象操作を繰り広げたメディアの罪もまた重い」(7/20)

 安倍擁護のためなら、党の顔の一人である石破まで“悪の抵抗勢力”よばわりするとは…。こんな謀略新聞で意思統一を強いられる自民党員には心底同情する。

市民にツケまわし

 獣医学部の新設は市民にとっても必要な「規制改革」だと安倍応援団は言う。本当にそうなのか。産業動物診療に携わる獣医師と公務員獣医師が地域によっては不足しているのは事実である。しかし、これは獣医学部の新設で打開できる問題ではない。重要なのは獣医師の重労働・低賃金を改善することである(本紙1485号8面参照)。

 大学誘致による地域活性化はどうか。今治市は加計学園の進出で増える税収を年間3千万円と試算している。一方、今治市と愛媛県は獣医学部新設の総事業費192億円のうち96億円を負担する。この税負担の元を取るには320年かかる計算だ。地域活性化どころか、さらなる疲弊を招くことは明白だろう。

 この件については悪しき前例がある。銚子市は加計学園系列の千葉科学大学(首相側近の萩生田(はぎうだ)光一官房副長官が名誉客員教授として在籍)を誘致するために、敷地の8割を無償供与、補助金約77億円をつぎ込んだ。その負担が今、市の財政を圧迫している。加計優遇が市民生活に悪影響を及ぼしているのだ。

   *  *  *

 獣医学部新設問題に話を戻すと、安倍官邸が「平成30年4月開学」と期限を切った背景には加計学園の経営事情が存在していた。同学園は日本私立学校振興・共済事業団から50億円を超える借り入れをしており、その利息返済が来年3月から始まる。獣医学部を立ち上げ、カネが入ってこなければ困るのだ。

 いかがであろう。安倍一派が「岩盤規制にドリルで穴を開けた」と胸を張る獣医学部新設のウラ事情はこんなものだ。「おともだち」のビジネスを手助けするために、「総理のご意向」で行政を歪めたのである。そして、市民には優遇のツケとしての税負担がのしかかる…。

 国家戦略特区は「成長戦略の柱」などではない。法律の規制を逃れ、安倍一派の私利私欲を満たす道具になっている。加計疑惑を突破口に、この巨大な不正を徹底的に暴かねばならない。

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