2017年08月11日 1489号

【自衛隊日報 隠ぺい問題/「稲田辞任」は終わりの始まり/政権ぐるみの犯行を暴け】

 稲田朋美防衛相がようやく辞任した。だが、トカゲの尻尾きりで日報問題を決着させてはならない。そもそも何のために、南スーダン派兵の陸自部隊が作成した日報を隠そうとしたのか。大規模な戦闘が起きている現地情勢を知られたくなかったからだ。これは政権ぐるみの隠ぺい工作であり、内閣総辞職ものの事案なのである。

安倍も知っていた

 「監督責任を取って辞任する」と言いながら、日報隠ぺいへの関与は最後まで否定した稲田前防衛相。最後の会見ではこんな発言をしていた。辞任を決めたタイミングを聞かれ、「かねてより総理と相談してきた。そのつど、そのつど自分の気持ちを伝えてきた」と答えたのである。

 安倍晋三首相に何度も進退を相談したというのなら、その原因となった日報問題の経緯も報告しているはずだ。となると、安倍の言い分と食い違いが生じる。安倍はいまだに日報問題についての報告を「受けていない」と言い張っているからだ(7/25参院予算委の閉会中審査)。

 防衛省・自衛隊を揺るがす大事件なのに、自衛隊の最高指揮官である首相への報告がまだなんて…。「いくら何でもそれはない」としか言いようがない。安倍は明らかにウソをついている。責任逃れのための見え透いたウソだ。

 実は、陸上自衛隊内に日報データが残っていることが陸上幕僚長に報告された翌日というタイミングで、防衛省の事務方トップが安倍と面会していた。防衛事務次官(今回辞任した黒江哲郎)と官房長が1月17日に首相官邸を訪れているのである。

 防衛省側から官邸への事情説明が行われた−−そう考えるのが自然であろう。特別防衛監察の結果は「非公表」方針の最終決定者を黒江事務次官と認定したが、これほど馬鹿げた話はない。保身第一の役人たちが官邸の了承を得ないまま物事を進めるはずがないのである。

戦争法の実績づくり

 日報は南スーダンPKO(国連平和維持活動)に派兵されていた陸自部隊の活動記録である。そのデータは陸自の中央即応集団司令部(防衛相の直轄組織)に送信され、翌日の「モーニングレポート」にまとめられていた。

 フリージャーナリストの布施祐仁が日報等の情報公開請求を行ったのが昨年9月30日。通常30日以内の結果通知が引き延ばされ、2か月後の12月2日に「すでに廃棄しており不存在」との連絡が届いた。日報はなぜ「廃棄して存在しない」ことにされたのか。戦争法(安保関連法)の実績づくりを狙っていた安倍政権にとって都合の悪い事実が記されていたからである。

 昨年7月の日報には、首都ジュバの自衛隊宿営地近くで、政府軍と反政府勢力が戦車や迫撃砲を使用し激しい戦闘をくり広げている状況が克明に記録されていた。また、今後想定されるシナリオとして、「衝突激化に伴う国連活動の停止」にも言及していた。

 一方、政府は「衝突であり、法的には戦闘行為ではない」(稲田防衛相/9/30衆院予算委)と説明していた。現地の停戦合意などの派遣条件=PKO5原則は崩れていないとしたのである。だが、日報に記されたリアルな現実が知れ渡れば、そのような詭弁は通用しなくなる。

 折しも、安倍政権は戦争法にもとづく「駆けつけ警護」などの新任務を南スーダン派兵部隊に与えることを急いでいた(11月15日に閣議決定。最初の部隊出発が11月20日)。ある陸自幹部は「官邸の意向ということで、陸自内は新任務付与ありきで突っ走っていた」と、当時の雰囲気を明かす(7/28朝日夕刊)。

 自衛隊撤退を求める世論を喚起するような情報は表に出せない−−そうした判断が働いたことは明らかだ。

退陣に追い込む時

 本来なら「客観的な事実」を踏まえて政策を決定すべきなのに、政権の意向(戦争法の実績づくり)に合わせる形で事実をねじ曲げた−。安倍政権のやっていることは、都合のいい情勢判断と情報隠しによって、無謀な侵略戦争に突っ込んでいったかつての大日本帝国と同じである。祖父(岸信介元首相)らが築いた帝国ニッポンを賛美する安倍晋三は、その過ちまでくり返したいらしい。

   *  *  *

 この期に及んでも自らの責任を認めず、謝罪もしない稲田前防衛相が厳しく批判されるのは当然だ。だが、メディアが誘導する「稲田叩き」で溜飲(りゅういん)を下げてしまってはならない。日報問題の本質は、戦争法の実績づくりのために行われた「政権ぐるみの情報隠ぺい」なのである。

 自民党は、日報問題をめぐる国会の閉会中審査に稲田を参考人として呼ぶことを拒否した(7/31)。党および官邸側はさらなる「失言」を恐れ、安倍個人は寵愛する「ともちん」を守りたい。その思惑が一致した結果であろう。冗談じゃないよ、まったく。

 隠ぺい・ウソつき集団の逃げ切りを許さず、断末魔の安倍政権を一気に打倒しなければならない。    (M)



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