2017年08月11日 1489号

【どくしょ室/国民のしつけ方/斎藤貴男著 インターナショナル新書 本体740円+税/政府の洗脳装置と化すメディア】

 「私たちは日々、何者かによって私たち自身の生き方や考え方を『しつけられている』のではないか」。著者は冒頭でこのような問題提起を行う。知らないうちに特定の価値観を刷り込まれているのではないか、というのである。

 こうした状況は自然に形成されたものではない。情報の大半を依存せざるをえないマスメディアの影響が大きい。そのメディアがすっかり牙を抜かれ、政府と一体化している。著者はこうしたジャーナリズムの危機に警鐘を鳴らす。

 昨年来日した、国連人権理事会の「言論と表現の自由」の調査を担当する特別報告者デービッド・ケイ氏は「日本の報道の独立性は重大な脅威に直面している」と述べた。ケイ氏によると「政府による報道への圧力」と「ジャーナリズム側の過剰な自主規制」が存在するという。

 2014年、朝日新聞は福島原発事故「吉田所長調書」報道と日本軍「慰安婦」問題の「吉田証言」報道をめぐり、政権サイドからすさまじいパッシングを受けた。結局、「朝日」は安倍政権のブレーン・北岡伸一らで構成する第三者委員会の指摘を無批判に受け入れ、政権に「全面降伏」することとなった。

 2016年2月には高市早苗総務相が放送法を根拠に「電波停止」に言及。これにテレビ局はさしたる抵抗もせず、直後の番組改編期、政権に批判的な見解をしばしば述べていたニュースキャスターがそろって番組を降板した。

 その一方で、新聞社や放送局のトップは安倍晋三首相との会食を頻繁に重ねている。あきれたことに、新聞各社は消費税増税で導入される「軽減税率対象」に新聞購読料を含むよう「政権へのおねだり」ともいえる要求をしている。その交換条件として、政権に批判的な報道の抑制があるというわけだ。

 また、広告収入が減少する中で、既存メディアはあらたな収入を生み出すために、「ネイティブ広告」という広告手法に手を染めているという。これは、報道記事の体裁をとりながら、実は企業の宣伝PRを行う手法だ。もともとはネット業界で多用されている、広告を目的とした偽装記事(ステルスマーケット、略してステマ)の手法を既存メディアも取り入れた。報道記事の多くが企業によって買われるようになれば、企業に批判的な記事は消滅してしまうだろう。

 また、朝日新聞などは本業以外の不動産事業に力を入れるようになった。そうなれば地価の下落につながるような記事は意図的に流されなくなる。

 政府の発表を垂れ流すだけのメディア、収入源である企業の批判をしないメディアをジャーナリズムと呼ぶことはできない。著者は、市民がメディアリテラシーを高めることの重要性を説いている。    (N)
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