2017年10月13日 1497号

【どくしょ室/ルポ沖縄 国家の暴力  現場記者が見た「高江165日」の真実/阿部岳著 朝日新聞出版 本体1400円+税/この国の危機の縮図が高江に】

 2016年7月11日早朝、沖縄高江のヘリパッド基地建設工事の車両が機動隊に守られ米軍北部訓練場のゲートに入った。前日の参院選で沖縄は現職閣僚に十万票の大差で基地反対派の伊波洋一氏が当選したばかり。民意を踏みにじるヘリパッド工事の再開強行だった。

 著者は、その当日から現地取材に入り、国家権力の蛮行を目の当たりにした沖縄タイムスの記者である。本書は副題に「高江165日」の真実とあるように、工事「完了」とされ、北部訓練場の一部返還式典があった12月22日までの密着ルポである。

 7月22日本格的工事再開の日、早朝4時から現場は緊張に包まれた。本土から投入された500名の機動隊員が座り込む市民に襲いかかる。宣伝カー上の女性を機動隊員が引きずり降ろそうとし、首にかかったロープで女性は窒息死寸前に。「勝負ありだ、降りよう」とリーダー山城博治さんの声が響く。映画『標的の島』でも描かれた激しい攻防の場面に記者たちもいた。

 警察の市民への暴力的排除が日常となった。辺野古の座り込みから駆け付けた島袋文子さんも警官隊に車いすごと排除され指を骨折した。座り込みの住民にロープをかけ10mもの斜面を引きずり上げる際に落下させ大けがをさせた。逮捕者は半年間で19名に上り、しかもほとんどが微罪。そうした警察の暴力や不当逮捕、違法な工事進行、環境破壊、騒音被害の実態と住民の不安を記者たちは連日にわたって報道し続けた。

 記者も拘束された。琉球新報の女性記者が市民を排除している機動隊の写真を撮っていると、いきなり肩をつかまれ、機動隊バスに囲まれた「拘禁場所」に閉じ込められた。タイムスの記者も同じ場所で「拘禁」された。「報道の自由」はふみにじられたのだ。

 オスプレイ墜落事故では、米軍が現場に規制線を張り、取材を妨害した。ここでも機動隊が動員され、米軍の指揮下に警察が置かれる。退去を命じる米軍に記者は「ここをどこの土地だと思っているのか」と抗議した。ほとんどの本土紙は「不時着」と政府発表を垂れ流したが、現場取材した地元紙は「墜落事故」を報じた。

 著者は本土の沖縄に対する無関心が国家の暴力を生んでいるのではないかと問題提起する。ある防衛省職員は「高江で本土の機動隊を大量動員し、市民を次々と逮捕したが、本土では批判が広がらなかった。それが成果の一つだ」と語った。高江の「完了」からわずか5日後の辺野古の工事再開も、本土から批判が起こらないとの政府の自信からだ。

 著者は本土出身だ。本土と沖縄の断絶の深さを前に、「確かなのは、沖縄の問題は本土の問題。本土の当事者意識がなければ解決しない」と強調する。本書は「ひたすら伝え続けることで責任を果たしていきたい」とした労作である。(N)
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