2017年10月20日 1498号

【麻生の「難民射殺」発言/差別を煽るヘイトクライム/安倍も小池も排外主義者】

 麻生太郎副総理がとんでもない暴言を吐いた。朝鮮半島有事で大量の難民が日本に押し寄せる可能性があるとして、「武装難民かもしれない。防衛出動か。射殺ですか。真剣に考えたほうがいい」と言い放ったのである。こうした差別煽動発言は麻生の専売特許ではない。「希望の党」の小池百合子代表も同様の排外主義者なのだ。

副総理が殺人教唆

 問題の発言は9月23日、宇都宮市内での講演でとびだした。麻生はシリアやイラクの難民の事例を挙げ、朝鮮半島で紛争が起きれば「向こうから日本に難民が押し寄せてくる」と指摘。さらに「武装難民かもしれない」としたうえでこう述べた。「警察で対応できるか。自衛隊、防衛出動か。じゃあ射殺か。真剣に考えた方がいい」

 この発言に対しては「根本的にありえない」(コラムニストの小田嶋隆)といった批判が相次いだ。すると産経新聞は「左派団体や識者ら猛反発」(9/24WEB版)と揶揄(やゆ)気味に報道する始末。「まっとうな問題提起を頭ごなしに批判するのは左翼だけ」と印象づけたいのだろう。

 なるほど、安倍応援団のネトウヨが連投しているせいか、ネットでは麻生擁護論がやたらと目立つ。「武装のままなら射殺されても当然」「殺らなきゃ殺られる」「武装難民が日本人を襲ってからでは遅い」「いつまで平和ボケすれば気が済むのか」等々。

 しかし、武装している状態でも難民は難民だ。いったん日本の領域や領海内に入ったら、日本政府には人道的に保護する法的義務が発生する。命からがら逃げてくる人びとが護身用の武器を持っているのはよくあること。武装解除の措置が必要ならそうすればいいだけの話なのだ。

 ロンドン大学高等研究院難民法イニシアチブの橋本直子は「一言でいえば、難民を射殺することは殺人で犯罪です」と指摘する。殺人行為が国家政策として組織的に実行されたのなら(たとえば副総理の指示)、「人道に対する罪」に該当する(「国際刑事裁判所に関するローマ規定」の第7条1項のa)。

 難民の「射殺」は違法行為である。自衛隊の防衛出動もありえない(現行法にそのような規定はない)。副総理の立場にある者が法律を無視して難民差別・排除の姿勢をあらわにする−−衆院解散以来のドタバタ劇でかすんでしまったが、本来なら「一発退場」ものの暴言なのだ。

嫌悪と恐怖の刷り込み

 麻生が「武装難民」に言及するのは今回が初めてではない。これまでにも国会答弁や記者会見などで「難民=偽装したテロリスト」といわんばかりの主張をくり返してきた。「難民」と「武装」をわざわざ結びつけて語ることで人びとの不安を煽り、難民に対する嫌悪感や恐怖を人びとの意識に刷り込んでいく。これが悪質なヘイトクライム(憎悪犯罪)でなくて何であろう。

 ネットにあふれる麻生擁護論、すなわち「北朝鮮の武装難民=反日=略奪・暴動」といった図式の反応をみていると、関東大震災時の朝鮮人虐殺を思い起こさずにはいられない。植民地支配・朝鮮人敵視政策に由来する差別と偏見が悪質なデマを生み、大規模なジェノサイド(集団殺害)にまで発展した。

 政治家による差別の煽動はそれほど危険だし、罪が重い。厳格なヘイトクライム禁止法がある国なら、麻生は牢屋にぶち込まれてもおかしくないのである。

極右支配を許すな

 「北朝鮮の脅威」を声高に叫び、対決姿勢を強調すればするほど票になると思っている安倍政権。麻生の「武装難民」発言はその一環であろう。民族差別・排外主義を政治的に利用しているわけだが、その点では「希望の党」を立ち上げた小池百合子都知事も負けていない。

 小池は朝鮮人虐殺犠牲者への追悼文送付を自身の判断で取りやめた。「何が明白な事実かは歴史家がひもとくものだ」(9/26都議会本会議)とうそぶき、虐殺の事実すらあいまいにしようとしている。

 また、外国人参政権を「リベラル排除」の踏み絵に使った。衆院選の「希望」公認候補に選ぶ条件として、「外国人に対する地方参政権の付与に反対すること」と明記された政策協定書への署名を義務づけたのである。

 もともと小池は永住外国人に対する地方参政権付与に一貫して反対してきた。都知事選の第一声で「外国人の地方参政権に反対です。国境の(沖縄県)与那国島になんらかの意図を持った人たちが押し掛けてきたらどうなるのか」とぶち上げたほどだ。

 人気取りのためなら外国人差別の煽動も平気−−小池の本性は麻生や安倍晋三首相と同じ極右政治家である。キャッチフレーズに掲げる「寛容な保守」「ダイバーシティー(多様性)社会」とは真逆の排外主義者なのだ。

 暴言連発の麻生が政治家失格とはならず、小池のようなデマゴーグがもてはやされる今日の社会状況は極めて危ういものがある。悪夢のような極右2大政党制、あるいは極右大連立政権の出現を絶対に許してはならない。 (M)



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