2017年10月27日 1499号

【保安院パンフを証拠提出/国の主導的役割 明らか/井戸川裁判(福島被ばく訴訟)口頭弁論】

 住民を被ばくさせた国と東京電力の責任を正面から問おうと、元双葉町長の井戸川克隆さんが起こした「福島被ばく訴訟」。10月4日、東京地裁で行われた第8回口頭弁論は、事故を防げなかった国の責任の重大性を浮かび上がらせた。

 福島原発事故において国はどの程度の責任を負うのか。これまでに判決があった3つの避難者集団訴訟は3通りに判断が分かれている。

 千葉地裁判決(9/22)は「国の規制権限不行使は合理性を欠くと認められない」と国の責任を否定した。前橋地裁判決(3/17)と福島地裁判決(10/10)はいずれも「国が適切に規制権限を行使していれば事故は回避できた」と国の損害賠償責任を認めたが、前橋判決が「国の責任は東電と比べて二次的にとどまるとはいえず、国が賠償すべき慰謝料額は東電と同額」と断じたのに対し、福島判決は「国の責任は東電を監督する第二次的なものであり、賠償すべき範囲は東電の2分の1にとどまる」としている。

 4日の法廷では、原告の井戸川さん側が準備書面の要旨を陳述。「東電にも国にも『万が一にも事故を起こさないよう万全の措置を講じる』高度の注意義務が課されていた」と指摘した上で、「国は東電に対し主導的・積極的な役割を担っており、現に原子力安全・保安院は住民に向け、安全確保のために厳正に主導的・積極的役割を果たしている旨広報していた」と明らかにした。

 その証拠として提出したのが、井戸川さんの町長在職中に双葉町役場に示されたパンフレット『妥協しません 原子力の安全 NISA』だ(NISA=原子力安全・保安院)。各ページには「NISAは原子力の安全に責任を持つ行政庁として、その中心的な役割を担っています」「国民のみなさまのエージェント(代理人)として原子力の安全を厳しく監視します」「立地から設計、建設、運転、廃止まですべての段階でNISAは要所を押さえた規制を行っています」といった文言が並ぶ。

ウソ重ねる行政と政治

 パンフにある「全国100人を超える保安検査官は365日、24時間対応できる体制を整えています」「万一の緊急事態にも日頃から備えています」との“公約”はいとも簡単に投げ捨てられた。検査官たちは3月12日以降22日まで現場から逃亡していた。緊急時に組織される「原子力災害合同対策協議会」には地元自治体も住民も参加させられなかった。

 報告集会でパンフについて解説した井戸川さんは「私が許せないのはウソ。ウソをついた人が平気で笑っているのが今の日本社会だ。とくに行政と政治がウソを重ねている。原発事故も同じ。国から示された文書に決裁してきた私にも責任がある」と語る。

 「NISAの責任は重大。逃げおおせるものではない。逃亡した検査官が規制委員会に。規制委員会が何を言おうと私は信用できない」。井戸川さんは、福島事故を経てもなお原発再稼働に固執する国の責任を鋭く告発した。

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