2018年01月19日 1510号

【どくしょ室/東電原発裁判 福島原発事故の責任を問う/添田孝史著 岩波新書 本体780円+税 暴かれる「予見不可能」のウソ】

 本書は、福島原発事故をめぐり東京電力などを追及する原発裁判の審理過程で明らかになった事実をもとに、安全より利益を優先させた東電の組織的責任、それを認めた国の責任を明らかにしている。

 東電は1971年に福島第一原発が稼働した当時から最大5・7bの津波しか想定していなかった。しかし、99年に作られた国土庁、建設省等防災にかかる7省庁「津波防災対策強化の手引書」は福島県沖の巨大地震を想定した。福島原発に少なくとも8b超の津波対策が必要とされた。

 これに対し、東電を筆頭とする電気事業連合会は土木学会の御用学者で作る津波部会を新設させ、過去400年間の地震の知見を用いることで福島県沖巨大地震を想定から除外した。この「土木学会基準」が地震・津波対策を遅らせる口実として最後まで使われた。

 その後、政府の「地震調査研究推進本部(地震本部)」が2002年に福島沖でマグニチュード8・2の発生の長期予測を発表。06年に原子力安全・保安院は古い原発の耐震対策を新たな知見で再チェックする「バックチェック」を3年以内に完了するよう指示した。

 08年に東電の子会社・東電設計が地震本部の基準で15・7bの津波が福島原発をおそうと予測し海抜20bの防潮堤建設の対策を本店幹部に提出した。これを採用せず「津波の高さを再検討せよ」と指示したのが武藤栄元東電副社長だ。そして、その決定を追認したのが武黒一郎元副社長と勝俣恒久元会長であった。

 当時、東電は07年中越地震で新潟県柏崎刈羽原発が全面停止となり、収支が悪化していた。「バックチェック」で新たな対策が必要となれば、長期の原発停止は避けられない。東電は人手不足を理由に「バックチェック」を2012年まで引き延ばすことを保安院に報告した。安全対策より経営を優先する東電は津波想定をもみ消したのである。

 市民が刑事告訴した勝俣、武黒、武藤の3人は、検察の不当な不起訴処分にもかかわらず検察審査会の強制起訴で刑事被告人となり、ついに公判が始まった。だが、3人は「巨大津波は想定できなかった」となおも開き直っている。

 国も東電の対策先延ばしを容認した。福島原発が国の進めるプルサーマル計画(使用済み燃料の再処理で生成されるプルトニウムを再利用する計画)の受け入れ原発だったからだ。

 損害賠償裁判では、前橋、福島両地裁判決が国および東電の事故責任を認めた。千葉地裁判決は国の責任を認めなかったが、「津波は想定外」という東電の主張は退けられた。今後、刑事裁判の公判で、東電や国が隠蔽した事実をさらに明らかにされる可能性もある。

 事故責任の究明が原発再稼働を許さない力になることは間違いない。本書はそのことを教える。 (N)
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