2019年06月07日 1578号

【ミリタリー・ウォッチング 米政権が実行する中南米「裏庭」計画/ベネズエラへの制裁・介入をやめよ】

 中距離核戦力(INF)全廃条約から離脱、イラン核合意離脱と中東和平の破壊など、世界規模での危機醸成、軍事挑発を繰り返す米トランプ政権。その一つ、危険な軍事行動を伴う政府転覆計画が南米ベネズエラを舞台に進行している。

 米国政府にとって、前大統領ウゴ・チャベスから現大統領ニコラス・マドゥロへと2代20年続くベネズエラ反米民族主義政権の打倒は「最重要課題」の一つだ。オバマ前政権下でも、ラテンアメリカを管轄する米南方軍が「ベネズエラ自由作戦」の名でマドゥロ政権打倒計画を策定していた。

極右勢力を先兵に

 ベネズエラは世界最大の原油埋蔵量を持つ。この石油利権が狙いであることを米国は隠さない。だが、米国の目標はこれだけではない。一時期、3分の2にまで達した中南米の反米政権を一掃し、再び自らの「裏庭」として支配下に置くことが最終目標だ。

 トランプ政権に巣くう好戦的ネオコン一派(ボルトン大統領補佐官、ペンス副大統領、ポンペオ国務長官など)はベネズエラ、ボリビア、ニカラグア、キューバなど反米政権をドミノ式に倒そうとの長期戦略の下、計画を加速させている。

 2015年末アルゼンチンに財界出身の大統領を誕生させた後、コロンビアとブラジルで極右政権の樹立に成功。彼らが先兵となって、米国のラテンアメリカ「裏庭」計画を担っている。ベネズエラ「暫定大統領」を名乗り、トランプ政権の強力な庇護のもとにクーデターやゼネストを呼びかけるフアン・グアイド国会議長も極右政党所属であることはあまり知られていない。

 1月23日、グアイド国会議長を「暫定大統領」に擁立した米国は、コロンビア国境などから「人道支援」を隠れ蓑に軍事的圧力をかけ、マドゥロ大統領に退陣を強要する作戦を立てた。「物資搬入」をめぐって「衝突と混乱」が起きれば、コロンビアに待機する米軍特殊部隊を出動させ、軍事介入する計画だ。

介入狙いフェイク拡散

 そのための情報戦として、湾岸戦争時の「油まみれの水鳥」ばりのフェイク・ニュースを次々と繰り出している。「ベネズエラ市民のひどい生活」をイメージさせる出所不明の写真を出回らせ、「これ以上放置はできない」と世論誘導する。極めつきは、「治安部隊が飢えた人々の食料と医薬品を積んだトラックに放火」との動画が配信され、ボルトンなどが世界に拡散した事件だ。これは、ニューヨーク・タイムズの検証によって、同じコロンビア発の「人道支援」のトラックから投げつけた火炎瓶によるものであったことが明らかにされたが、日本のメディアはこの事実をほとんど報道していない。

 4月30日、グアイド「暫定大統領」が再び呼びかけた「市民蜂起」と軍の政権離脱=クーデターによるマドゥロ大統領追放作戦は不発に終わったようだ。今のところ、米国のマドゥロ政権早期打倒の目算は外れている。だが執拗な内政干渉と軍事挑発が今後も繰り返されることは間違いない。

 ベネズエラ市民の生活破壊が米国の経済制裁によるものであることは明らかだ。「民衆の命を奪う経済制裁やめよ」「米国は軍事介入するな」の国際世論を高め、平和的交渉によって解決しなければならない。

豆多 敏紀
平和と生活をむすぶ会

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