2019年06月14日 1579号

【ドクター林のなんでも診察室 原子力ムラの隠ぺい打ち破る貴重な論文】

 少し前に、ドイツの共同研究者のH・シェアプ氏から、専門誌に送ったシェアプ氏・森國悦氏・私共著の短報がイギリスの放射線防御の専門誌に掲載されたとのメールがありました。以前の論文への追加報告で、周産期(妊娠22週から生後7日まで)の子どもの死亡が2017年末まで続き、福島近隣6県で約19%、3都県でも10・6%増加したというものです。これは、事故の影響が継続していることを示した重要なデータですが、不可解な理由で他の医学雑誌に掲載を断られていました。

 それにしても、昨年までに福島原発事故の人体への影響を示す科学的報告が世界的な雑誌に載ったのは、岡山大学津田敏秀教授の甲状腺がんの論文と私たちの周産期死亡論文以外見当たりませんでした。私たちの論文に対しては、原発推進派から周産期死亡の原因になる「奇形」の増加がない(だから周産期死亡が増加するはずがない)との反論が根拠もなくされました。

 しかし、それを打ち破る貴重な論文が昨年5月と今年3月に日本人研究者から発表されたことを知りました。

 一つは、原発事故後に乳児の重い心臓「奇形」が増加したとの報告です。名古屋市立大学の村瀬香氏らは、胸部外科学会のデータで乳児の重症心臓「奇形」の手術数が14・2%も増加したことを示したのです。しかも、掲載された雑誌は、アメリカ心臓病協会という心臓病の世界的な治療指針を作成するような権威ある学術団体の機関紙です。

 私は医者になりたての頃に、生まれて間もなく亡くなったお子さんの死亡原因や医療の適切さを検討する病理解剖の手伝いをしました。この論文を読み、複雑な心臓「奇形」で亡くなったお子さんのことを思い出しました。先の短報には、村瀬氏らの研究は我々の周産期死亡増のデータを支持するものだと、シェアプ氏に書いてもらいました。

 もう一つも村瀬氏らの報告です。これも『泌尿器科学Urology』という世界的な医学雑誌に掲載されました。「停留精巣」という精巣の位置異常の手術件数が、福島原発事故後13・4%増えているというものです。軽い異常ですが、人体形成過程が障害されている事実として重要な指摘です。

 これらの2つの論文が、世界的な雑誌に発表されたことは大変重要です。日本の原発推進勢力の医学会に対する影響は絶大なようで、日本の医学会はすべてだんまりを決めこんでいます。私たちは、日本小児科学会にこの7年間原発事故の子どもへの影響を研究することを要求し続けていますが、実現しません。村瀬氏らのように原発の影響を科学的に分析し子どもの未来を守ろうとする方々が増え、私たちと連帯してくれることを期待しています。

   (筆者は、小児科医)
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