2019年06月14日 1579号

【空母保有は安倍案件/日米中国封じ込め作戦に投入/「武力による威嚇」担う侵略兵器】

 前号で取り上げた映画『空母いぶき』には、自衛隊初の空母が登場する。劇中の「いぶき」は最初から空母として建造されたという設定だが、現実世界では既存の護衛艦を改修して空母化することが決まっている。米国から購入するF35B戦闘機を使えるようにするというのだ。安倍官邸が主導した「空母保有」の狙いは何か。

トランプにアピール

 トランプ米大統領と安倍晋三首相は5月28日、海上自衛隊横須賀基地を訪れ、停泊中の護衛艦「かが」を視察した。同艦は海自のヘリコプター搭載型護衛艦いずも型の2番艦であり、米国製のステルス戦闘機F35Bを搭載できるよう改修される予定だ。事実上の空母化である。

 安倍首相は空母化の意義について「日米同盟のさらなる強化に向けて日本はその役割を果たしていく」と語った。これに対しトランプ大統領は「この新しい装備は私たちの国々を守ってくれる。様々な地域の紛争、離れた地域の紛争にも対応してくれることになる」と応じた。

 両首脳の発言が示すように、空母に改造された「いずも」型護衛艦はグローバル規模で展開する日米共同作戦への投入が想定されている。具体的には対中国包囲網の一翼を担うことになるだろう。

 2016年8月、安倍首相は「自由で開かれたインド太平洋構想」を提唱した。海洋進出を進める中国軍を封じ込めるべく、日米軍事同盟を基軸とした多国間の安保連携を強化するという戦略である。中国側が「脅威」と感じる空母打撃群を構成するには、米軍との一体運用が可能な自衛隊の空母が欠かせない。空母は安倍構想を具現化するための道具なのだ。

憲法違反は明らか

 空母とは航空母艦のこと。その名のとおり「洋上の航空基地」であり、敵国の領土や敵艦隊への攻撃を主任務とする。旧日本海軍は空母を中心とした機動部隊を世界で初めて編成し、真珠湾奇襲攻撃を成功させた。まさしく侵略用の兵器なのだ。

 日本国憲法は「戦力不保持」(9条2項)を定めている。自衛隊の兵器は「自衛のための必要最小限度の装備」という位置づけだ。よって歴代政府は、他国の国土に壊滅的な打撃を与える性能を持つ攻撃的兵器(大陸間弾道ミサイル、長距離戦略爆撃機、そして攻撃型空母など)の保有は憲法上許されないという見解を踏襲してきた。

 では、改造後の「いずも」型はどうなのか。全長248メートル、全幅38メートルというサイズは、旧海軍の空母「加賀」とほぼ同じ。最大の特徴は、艦首から艦尾までつながる「全通甲板」を採用していることにある。戦闘機のジェットエンジンが発する熱に耐えられるように甲板を改修すれば、F35Bを載せた空母としての運用が可能だ。

 それなのに、政府・与党は空母という呼称は使わず、「多用途運用護衛艦」だと強弁している。専用の艦載飛行隊は持たず、戦闘機は必要な時にだけ載せる。だから「海に浮かぶ臨時の飛行場であり、空母ではない」(公明党中堅議員)というわけだ。

 ネーミングで実態を隠す手法は安倍政権、いや大本営発表以来の伝統だが、これは子どもだましにもならない。公明党は「平和の党」を自称しているが、憲法の空洞化を言葉遊びでごまかす連中に「平和」を名乗る資格はない。

先制攻撃能力の強化

 昨年12月18日、政府は新たな「防衛計画の大綱」と今後5年間の「中期防衛力整備計画」を閣議決定した。その目玉商品が「いずも」型護衛艦の空母化であった。この空母化計画は「自衛隊の要望ではなく、自民党案をそっくり取り込んだ『政治主導』の防衛政策だ」と、東京新聞の半田滋記者は分析する。

 たしかに、今回の大綱原案の策定者は第2次安倍政権下で発足した国家安全保障会議である。「首相官邸」が主導し、防衛官僚や自衛隊制服組の意向は脇に追いやられたというのだ。空母保有は海上自衛隊にとって創設以来の悲願だが、当面の優先課題は老朽化した装備の更新にある。巨額の改修費用はそちらに回したいのが本音だろう。

 文民統制(シビリアン・コントロール)は本来、軍事組織の暴走を抑える仕組みである。だが、そうした常識は今の安倍政権には通用しない。好戦的な政治家がイケイケドンドン的に軍備増強の旗を振り続けている。安倍首相がその張本人であることは言うまでもない。

 昨年2月14日の衆院予算委員会で安倍首相はこう述べている。「専守防衛は純粋に防衛戦略として考えれば大変苦しい。攻撃を受ければ回避するのは難しく、先に攻撃した方が圧倒的に有利になっているのが現実だ」。先制攻撃を事実上容認する発言だ。

 米軍が自衛隊に任務負担を求めている(攻撃の役割も負担せよ、ということ)ことに便乗し、安倍政権は自衛隊の先制攻撃能力を飛躍的に強化しようとしている。「武力による威嚇」を実行するための裏付けとしたいのだ。「いずも」型の空母化はその突破口にほかならない。  (M)



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