2019年06月14日 1579号

【遺族の心を二重三重に踏みにじる/ノー!ハプサ(合祀)2次訴訟不当判決/ヘイトスピーチと変わらず】

 植民地支配下に軍人軍属として強制動員され戦死した韓国人の遺族27人が靖国神社への無断合祀を取り消すよう求めたノー!ハプサ(合祀)第2次訴訟で東京地裁は5月28日、原告の請求をすべて棄却する不当判決を言い渡した。来日した原告の李明九(イミョング)さんと朴南順(パクナムスン)さんは、理由も説明せず「原告の訴えをいずれも棄却する」の一言で逃げ去った裁判官に怒りをにじませ、「このままこの場(地裁前)で座り込みたい気持ちだ」と抗議の意を表した。

 判決書は316ページと一見分厚い。しかし、判決本体は98ページで、うち裁判所の判断部分はわずか20ページほど。残りは原告の準備書面をそのまま綴っただけだ。裁判所は原告の訴えを自ら咀嚼(そしゃく)することさえ放棄し、判決の単なる付属物に貶(おとし)めた。「著しく怠惰な判決」(大口昭彦弁護団長)「遺族の心を二重にも三重にも踏みにじる判決」(浅野史生弁護士)と言わなければならない。

 判決は「被告靖国神社には一宗教法人として憲法20条1項の規定する信教の自由が保障されている…その基本的な枠組みに照らせば、合祀は適法」と、遺族に無断で行われた靖国合祀を「適法」とまで言い、「本件合祀行為をもって、被合祀者を揶揄し侮辱するものと言うことはできず、社会通念上許される限度を超えて原告の人格的利益を侵害するものとは到底言えない。(原告の訴えは)法的保護に値しない」と切り捨てた。

 原告はいずれも、当時経済的精神的な柱であった父や兄弟を強制動員され失った被害者だ。戦後も生活は困難をきわめた。加害者を断罪することなく、被害者に「がまんしろ」とは何事か。人権侵害もはなはだしい。

 判決の特徴は、「植民地支配」について一言も言及していないこと。原告側は植民地支配下で行われた弾圧作戦や加害者による靖国合祀、侵略神社としての靖国に合祀される韓国人遺族の苦痛を詳細に明らかにしてきたが、判決は「原告は、被告靖国神社の有する『歴史観』なるものをるる論難するが、上記判断を左右するものではない」と歯牙にもかけない。2011年7月21日の第1次訴訟一審判決が「韓国国籍を有する原告らが、植民地時代に日本国に徴兵・徴用されて第二次世界大戦の戦場に赴き死亡した者の遺族であることを踏まえると、被告靖国神社による合祀行為に対し強い拒絶の意思を示していること自体については、原告らの歴史認識等を前提にすれば理解し得ないわけではない」としたことと比較しても著しい後退だ。

 判決は、植民地支配の歴史的事実さえ認めずアジア民衆の人権回復の訴えに憎悪をむき出しにするヘイトスピーチと本質的には変わらない。支援者の一人、山本直好さんは「ヘイトスピーチが公然と叫ばれる日本社会の現状を象徴する判決と受けとめている。だからこそ負けるわけにはいかない」。原告・弁護団はただちに控訴する意思を明らかにした。

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