2019年06月21日 1580号

【欧州議会選挙は何を示したか 抗議を意思表示したEU市民 社会的平等と移民との連帯へ】

 5月23〜26日に行われた欧州議会選挙の主要な争点は二つあった。一つは、EUと有力な加盟国政府が各国に押しつけている緊縮財政を撤回し、加盟国内での不平等をどう是正するかという点である。もう一つは、極右政党が攻撃の材料にしてきた移民・難民の受け入れを加盟国間でどのように公平に配分し、受け入れた移民・難民の社会統合をどう進めるのかという点であった。

保守と社民の大敗

 今回の選挙結果の最大の特徴は、50・9%という過去20年間で最高の投票率のなかにあって、EUによる緊縮財政と新自由主義政策を強引に推進してきた二大会派である「欧州人民党」(保守主義)と「社会民主進歩同盟」(社会民主主義)が大敗を喫したことにある。これらの会派はいずれも前回の選挙時より30議席以上を減らし、両会派の合計で初めて全議席の過半数を割った。EUの市民たちは、社会の格差拡大を是正するための方策に背を向け加盟国に緊縮財政を押しつけることで社会保障支出の削減を強いる二大会派の傲慢な姿勢に対し、単に愛想をつかすのではなく抗議の意思表示をするために投票所へ足を運んだ。

 この傾向が典型的に見られたのは、キリスト教民主・社会同盟と社会民主党が連立政権を組むドイツである。ドイツでは、自動車輸出等による経済の好調を受けて失業率が低下しつつあるが、拡大した雇用は有期契約やパートタイムであるため、ワーキングプアが顕著に拡大した。1991年から2016年の間に、ドイツの上位10%の富裕層の可処分所得は31%上昇したのに対し、貧困な下位10%のそれは減少した。キリスト教民主・社会同盟は前回の選挙に比して7議席を減らし、社会民主党にいたっては11議席を失った。選挙結果を受けて社会民主党の党首が辞任し、メルケル連立政権の存続自体が危うくなっている。

「緑」と極右の前進

 これら二大勢力に代わって議席を増やした会派の一角は、「緑のグループ・欧州自由連合」(環境保護派)と「欧州自由民主同盟」(自由主義)である。前者には、これまで社会民主主義政党を支持してきた人びとの多くが投票したのに対し、会派に加わる政党が増えた(フランスのマクロン大統領の新興政党である「共和国前進」もその一つ)せいもあって37議席を増やした後者には、これまで保守主義政党を支持してきた人びとの多くが投票したと思われる。

 議席を増やしたもう一つの会派は、EUに懐疑的で移民の排斥を訴える極右の会派だった。すなわち、昨年の総選挙で「五つ星運動」とともに連立政権に就いたイタリアの「同盟」やルペンの率いるフランスの「国民連合」が加盟する「国家と自由の欧州」、そして「ドイツのための選択肢」や「五つ星運動」が加盟する「自由と直接民主主義の欧州」である。イタリアの「同盟」とフランスの「国民連合」は、それぞれの国で最多の議席数を得た。極右の勢力拡大は、メディアが当初に予想していたほどのものではなかった。しかし、それらの台頭が著しかった国を見ると、会派の伸長の要因が判明する。

 ユーロ圏の財政赤字の上限である対GDP(国内総生産)比3%を2020年度に超えそうな見通しとなったイタリアに、EUは消費税の引き上げによる財政赤字の削減をくり返し迫っている。これに対して与党の「同盟」は、EUからの離脱という本来の主張を封印し、EUによる緊縮財政の押しつけを「内から」改革すると、今回の選挙で訴えた。マクロン政権のもとでの燃料の高騰、公務員の削減、富裕層への減税に抗議して昨年末から「黄色いベスト」運動が続いているフランスでは、マクロンの新自由主義への憤慨の一部をルペンの「国民連合」が吸収した。「黄色いベスト」運動に当初から加わったフランス南部の工場で働く労働者が「国民連合」を支持したという事例(5/26朝日)は、実に象徴的である。

欧州左翼の敗北と課題

 「欧州左翼党」に結集し、欧州議会では「欧州統一左翼・北方緑の左派」という会派を組む諸政党は、緊縮財政を強いるEUの条約の改正や移民・難民の権利向上を訴える「共通選挙政綱」(注)を事前に公表して選挙に臨んだ。その結果はしかし、前回に比して13議席を減らす敗北に終わった。

 この会派内の最大勢力であるドイツ左翼党は、地球温暖化対策の推進を求めて広まった「未来のための金曜日」運動に代表される若者たちの環境保護への関心が緑の党の票へ流れるのを許した。それどころかドイツ左翼党では、2017年の総選挙において「ドイツのための選択肢」が旧東ドイツで台頭したことに危機感を覚えた一部の党員が、移民の受け入れよりも自国の労働者の福祉を優先するような自民族中心主義の主張を唱えるにいたり、この点でもまた緑の党に票を奪われた。左翼党は前回よりも2議席を減らして5議席にとどまった。

 ギリシャでは、与党の急進左派連合(シリザ)が前回と同じ6議席を維持したものの、8議席を得た保守野党の新民主主義党に敗れ、6月末以降の総選挙を余儀なくされた。シリザは、EUや国際通貨基金から強制された不本意な緊縮財政への市民の反発を甘受せざるをえなかった。

 前回の選挙では、2017年の大統領選で善戦したメランションの率いる政党と一緒に6議席を得ていたフランス共産党は、単独での得票率が2・5%にとどまり議席を失った。ただ、メランションの政党である「屈しないフランス」は6議席を得ている。

 左翼が重視する社会的平等を、環境保護および移民との連帯へ積極的に結びつけていくような政策が欧州左翼に問われているし、そのための努力は始まっている。フランス共産党から欧州議会議員に立候補し落選したイアン・ブロッサは、次のように述べた。「私たちが再建しなければならないし、再建することのできる左翼は、社会的な正義の実現と切迫している環境保護の必要性とを、企図の中心にすえなければならない」

(注)この「共通選挙政綱」訳文は、本紙ホームページの「翻訳資料 グローバル・トレンド」NO4で閲覧できます。

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