2019年06月21日 1580号

【労働法破壊/政府が副業・兼業推進/労働時間も解雇も無制限】

残業代ゼロ法提唱者が報告

 政府の規制改革推進会議は、今年2月、「働き方の多様化に資するルール整備に関するタスクフォース」を設置した。主査(責任者)は、残業代ゼロ法の提唱者である八代尚宏国際基督教大学客員教授だ。すでに3回の会合がもたれ、5月10日の第44回規制改革推進会議には八代による報告書が出された。

 報告書の第1項は「副業・兼業の促進」。

 政府は副業・兼業を促進しようとしているが、企業の大部分は副業・兼業を禁止している。その背景に、現行労働法の規定が、本業と副業について労働時間の通算を義務付けその結果生じる法定時間外労働について割増賃金の支払いを求めていることがあり、それが大きな妨げになっていると指摘。(1)労働時間の通算規定は同一事業主の範囲内でのみ適用し、自己の自由な選択に基づき働く労働者を雇用する事業者には適用しない(2)主たる事業主は健康確保のための労働時間把握に努めるものとする―と提唱する。

 これは、副業・兼業を通じて労働時間規制を実質的に全廃することであり、低賃金のダブルワーク、トリプルワークを蔓延させるものだ。

 第2項は「テレワークの促進」だ。情報通信機器を使い時間や場所にとらわれない働き方とされるテレワーク。その普及が遅いのは、「雇用主に対し、通常の事業所と同じ厳密な労働時間管理を強いている現行の労働法制、特に深夜労働に対する割増賃金の規定」のせいだとし、「深夜労働への割増賃金の規制を適用除外にすること」を提唱する。

 第3項は「副業としての短期派遣」だ。短期派遣=日雇い派遣は現在、原則、禁止されている。リーマンショックの際、不安定な日々雇用が社会問題となり、批判が広がった。その結果、2012年労働者派遣法改定で、派遣会社との契約が31日以上、年収500万円以上などの諸条件をクリアするか、ソフトウエア開発といった専門性の高い業務でなければ、日雇い派遣は認められなくなった。これに対し、年収要件を大きく引き下げ、「副業」としての日雇い派遣を復活させようというのだ。

 規制改革推進会議は、これらの法案を来年の通常国会にも提出したいとしている。

労働法なき「未来像」

 副業や兼業は、現在は一般化した働き方ではない。しかし、安倍政権はこれを推進しようとしている。その先に一体何があるのか。

 2016年厚生労働省は「働き方の未来2035」を発表した。その報告書は、技術革新によって働き方の「自律化」「多様化」「流動化」が進むとして、「2035年には、個人がより多様な働き方ができ、企業や経営者などとの対等な契約によって、自律的に活動できる社会に大きく変わっている」という。

 こうした未来像を前提に、「今までの労働政策や労働法制のあり方を超えて、より幅広い見地からの法制度の再設計を考える必要性が出てくる」と強調。「すべての働くという活動も、相手方と契約を結ぶ以上は、民法が基礎となる。(労使の)交渉力の格差は、かなりの部分は独占禁止法で対処できる面があるかもしれない」とする。労使の力関係の違いを前提に、労働者を守るために自由契約の民法原理を修正してつくられた労働法の規制を、根本から否定する主張を展開している。

 さらに「2035年の企業は、極端にいえば、ミッションや目的が明確なプロジェクトの塊となり、多くの人は、プロジェクト期間内はその企業に所属するが、プロジェクトが終了するとともに別の企業に所属するという形で、人が事業内容の変化に合わせて柔軟に企業の内外を移動する形になっていく」と描く。

 必要な時に必要な労働力だけを雇用し、必要がなくなれば解雇する。こんな社会では、労働者は到底生きていくことができない。

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 今回の規制改革推進会議の狙う労働法制改悪は、グローバル資本がめざす「労働の未来」を想定し、労働時間規制や深夜残業割増の廃止、日雇派遣の復活を狙うものである。一部の労働者だけを対象にしたものではない。副業・兼業・テレワークの拡大を通じて、働き方を根底から覆し、労働法なき契約社会≠作り出そうとしているのだ。
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