2019年07月05日 1582号

【原発避難者の住宅と人権保障を求めて/復興庁は福島県の「2倍家賃請求」を止めよ/「ひだんれん」などが緊急要請】

 福島県は高放射線量地域への帰還を強要する一方、避難者の存在自体が「風評被害」だとして支援策を次々に終了させている。公的支援(財政支出)がなくなれば、公的には移住者はいても避難者はいなくなったことになる。

 標的にされているのが、区域外避難者だ。8年経ったからもういいでしょう、とばかりに、避難生活の根本である住宅の支援策をすべて終わらせる暴挙に出た。避難指示解除で今後「自主避難」扱いとなる数万人の避難者に対する見せしめでもある。

 区域外避難者への住宅無償提供は2017年3月に打ち切られた。福島県は、借り上げ住宅から民間賃貸住宅に引っ越す世帯に2年間に限り月3万円(1年目)〜2万円(2年目)上限の家賃補助を行い、国家公務員宿舎に住む世帯には有償で2年間の継続入居を認めた。これらの支援策が3月、一律に終了。民間住宅に引っ越せば高い家賃を払えなくなる国家公務員宿舎入居者は、路頭に迷う。

 東京・江東区の東雲(しののめ)住宅には、50数世帯の区域外避難者が引っ越し先を見つけられず住み続けている。多くが低家賃の公的住宅(都営住宅)を希望するが、倍率が高くなかなか当選しない、そもそも入居要件に該当せず応募資格がない、病気が悪化し定職につけず貯蓄を切り崩してきた、など理由はさまざま。福島県はこのような事情の世帯に損害賠償として使用料の2倍を請求する手続きに入った。持ち主は国(財務省)だが、県が国と契約して宿舎を借り、避難者と契約して使用させる形をとっているためだ。

被害者追いつめる県

 ひだんれん(原発事故被害者団体連絡会)と「避難の権利」を求める全国避難者の会は6月21日、共同で福島県に使用料2倍請求中止、支援継続を要求したが、県は「すでに『自立』した者との公平性を保つため、新たな支援策は取らない」の一点張り。「経済的精神的に追い込まれた避難者が残っている。その世帯を救うことこそ行政の公平性ではないのか」と怒りが爆発した。17年3月の交渉では、“2年間支援”の根拠について「根拠はない。その間に『自立』のメドを立ててもらいたいという意味だ」と希望的観測を述べるにとどまっていた。ところが今は、「激変緩和措置を取り、十分時間を置いた」と開き直っている。

 前日20日には復興庁・財務省・国土交通省に対し、請求書送付の中止を福島県に指示するよう求めた。立憲民主・共産・国民民主各会派の国会議員5人が参加。「原発事故の責任がある国が主体的に判断せよ」「被害者である避難者を強制的に追い出すことは人権侵害」と追及した。

 福島県は生活保護受給者および転居が決まった十数世帯とは契約を継続する。「メドが立たない世帯との契約継続こそ必要ではないか。損害賠償をふっかけるとは、行政が経済的精神的に被害者を追いつめるものだ」と批判したが、3省庁から応答はなかった。

都議会にも要請

 「原発事故避難者の住宅確保を支援する江東の会」は、都営住宅入居の世帯要件緩和を求める陳情書を都議会に提出。否決されたが、「福島原発の電気を使ってきた都民としての責任がある。賠償請求しないよう福島県に都は申し入れるべきだ」(与党・都民ファースト)など、区域外避難者の住宅問題をめぐって1時間の審議が行われた。

 「都営住宅落選通知」ハガキ5枚を見せ、「家賃の低い都営住宅なら何とかやっていける。当選できるまでいさせてほしい」と訴えた単身避難者(男性)。いわき市で被災し、職を失い離婚し、精神疾患を発症して定職には就けない。福島県職員から民間賃貸住宅を紹介されたが、インターネットで検索し打ち出した物件ばかり。「避難者向けではなく、相場は高い。引っ越し代や敷金・礼金もかかる。それが個別に相談する、寄り添うということなのか」と不信を募らせる。追い打ちをかけるように、「退去しなければ法的手続きに入ります」との通知が届いた。

 本を正せば、国家公務員宿舎にとどまる人びとは、原発事故に対応した避難者住宅補償制度の不作為の犠牲者にほかならない。被害者・犠牲者を追いつめる行動は人権侵害そのものである。

 避難の協同センターなど支援者は、2倍請求書送付に対抗する緊急行動を呼びかけている。同時に、当事者を攻撃から守る連絡体制づくり、共同行動に取り組む。



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