2019年07月05日 1582号

【「年金」で炎上、安倍政権/またも発動「なかったこと」作戦/インチキ政治はもうごめんだ】

 年金問題で炎上中の安倍政権。「公的年金だけでは老後資金2千万円不足」とした金融庁審議会の報告書に対し、安倍晋三首相は「こんなことを書いて大バカ者だ」と激怒。官邸は火消しに追われている。参院選を控え、政権に都合の悪い事実を「なかったこと」にしたいのだろうが、同じ手口がいつまでも通用すると思ったら大きな間違いだ。

実は政府の共通見解

 「不正確であり、誤解を与えるものだった」。年金では老後の資金をまかなえず、夫婦で2千万円の蓄えが必要になるとした金融庁の報告書について、安倍首相はこう釈明した(6/10参院決算委員会)。麻生太郎副首相兼金融担当相は「政府の政策スタンスと異なる」として、報告書の受け取りを拒んだ(6/11)。

 報告書は金融庁の審議会の下に設置されたワーキンググループ(WG)がまとめたもの。安倍官邸はWGの「スタンドプレー」を印象づけることで、政権への影響を最小限に抑えようとしている。

 しかし、「老後2千万円不足」の根拠は厚生労働省が提供した政府統計である。議論の過程では金融庁自らが「必要額は1500万円〜3千万円」とする別試算を示していた。年金給付水準の減額見通しにしても、WGの会議に出席した厚労省年金課長が明言している。つまり、現行年金制度の限界は政府の共通認識なのである。

 そもそも、低賃金・不安定雇用がまん延している現在、WGが想定するような「夫婦あわせて19万円強の社会保障給付」を受け取れるような収入を得ている世帯は減り続けている。日々の生活で精一杯なのに、投資に回す資金などあるはずがない。

 それなのに報告書は「公的年金をあてにするな。老後の資金は自力で何とかしろ」という政府の本音をあっけらかんと書いてしまった。自己責任論の押し付けに人びとが怒るのは当たり前である。

「建物ごと燃やす」指令

 安倍自民党にしてみれば、参議院選挙の前に都合の悪い事実を自ら発表するなんて、ありえない悪手である。朝日新聞の報道(6/19)によると、安倍首相は「金融庁は大バカ者だな。こんなことを書いて」と激怒。二階俊博・自民党幹事長も「参院選を控え候補者に迷惑を及ぼさないようにしないといけない」と、報告書の撤回を迫った。

 官邸はただちに事態収拾に動いた。報告書の受け取り拒否という異例の対応は菅義偉官房長官の指示によるものである。森山裕・自民党国対委員長は「報告書はもうない」と強調。この問題で予算委員会を開く考えがないことを示した。政府も「報告書を前提とした質問に回答することは差し控えたい」とする答弁書を閣議決定した。

 まだある。財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が6月19日に答申した財政運営に関する意見書から、原案にはあった「将来世代の基礎年金給付水準が低下」「自助努力を促していく観点も重要」などの文言が消えた。財務省が削除したのである。財政審委員の一人は「政府への配慮で削ったのでは」との見方を示した(6/19毎日)。

 前述の「朝日」報道によると、「官邸側は『初期消火に失敗したら建物ごと燃やすしかない』とし、問題に『ふた』をする判断をした」のだという。不都合な事実は全部燃やしてしまえ、ということか。かつての大日本帝国は敗戦後、公文書を焼却し証拠隠滅を図った。その手口を帝国の子孫たる安倍政権は駆使しているのである。

怒りを参院選に

 太平洋戦争に突入した年の夏(1941年8月)、内閣直属機関「総力戦研究所」は日米戦争のシミュレーション結果をまとめた。結論は「日本必敗。開戦は何としても避けねばならない」。だが、報告は握りつぶされ、政策に反映されることはなかった。

 同年秋、日米開戦再検討のための大本営・政府連絡会議では戦争遂行に不可欠な石油の需給見込みが議論されている。企画院の総裁は需給バランスの試算表を示し「石油は足りる」と明言したが、それはつじつま合わせの数字にすぎなかった。

 当時の様子を陸軍燃料課にいた元将校はこう証言している。「これならなんとか戦争をやれそうだ、ということをみなが納得し合うために数字を並べたようなものだった。赤字になって、これではとても無理という表をつくる雰囲気ではなかった」(猪瀬直樹著『昭和16年夏の敗戦』)

 同じことが長きにわたる安倍支配の下で起きているのではないか。森友・加計事件、自衛隊の南スーダン派兵など、安倍政権は都合の悪い公文書や記録をことごとく「なかったこと」にしてきた。官僚の側も政権の意向を忖度し、自ら進んでデータの偽造、歪曲、隠蔽を行ってきた。

 政策を正当化するために客観的事実をねじ曲げるような行為がまかり通るような国は、大日本帝国がそうであったように必ず滅びる。被害をこうむるのは一般市民だ。安倍インチキ政治はもうたくさん。政権を存続できなくなるほどの打撃を参院選で与えねばならない。      (M)



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