2019年07月12日 1583号

【参院選勝利で政治を変える (3)社会保障 なんのための年金か 払える額ではなく、暮らせる額に】

年金だけで生活できない?

 社会保障をめぐる参院選の争点は年金問題だ。

 年金だけでは生活できないのか。金融庁の「老後資金、年金以外に2000万円必要」とした報告書は、こんなことも書いている。さらに、自宅のリフォーム費用465万円、健康維持や介護費用で最大1000万円、葬儀費195・7万円を加え計3660万円が必要という。経産省の審議会にも2900万円不足とする資料が出されている。

 「年金だけで暮らせる」ことは、健康で文化的な最低限度の生活を保障すべき政府の義務である。「年金では暮らせない」と政府が宣言するのは責任放棄だ。世論の猛反発にあわてて報告書の受け取りを「拒否」しても、事実がなくなるわけはなく、市民を愚弄するにもほどがある。

 政府の眼目は老後のための投資の勧誘にあった。低年金・無年金者にとってみれば、不足額を聞かされても意味はない。「年金で暮らせる制度」でなければならないのだ。解決策は何か。

自動削減の仕組み

 ただでさえ足りない年金支給額を自動的に削減するシステムがある。2004年に導入された「マクロ経済スライド」だ。公的年金保険の加入者の減少と平均余命の伸びを口実として支給額を減額する「スライド調整率」を決めた。賃金と物価が上がればそれに応じて支給額も上がるところを、「調整率」分を減らして伸びを抑える仕組みだ。

 例えば今年度、年金改定額が0・1%プラスになった。だが、その内訳をみると、まず物価変動率が1%、名目手取り賃金変動率0・6%のため、低い方の賃金変動率により年金額が上がるが、これにマクロ経済スライドを適用し、0・2%削減する。さらに前年度実施しなかった「調整」分0・3%が減らされる。つまり、0.6-0.2-0.3=0.1というわけだ。物価上昇分1%に対し、その10分の1の0・1%しか上がらず、実質的に減額となる。

 厚労省は「マクロ経済スライドによる調整を計画的に実施することは、将来世代の年金の給付水準を確保することにつながります」と説明する。「年金だけで暮らせる」など、毛頭考えていない。

 マクロ経済スライドによる「効果」は、以下のようになる。国民年金給付額は2040年時点で本来であれば25兆円となるものが、18兆円になる。7兆円も減額される。個人では、現在満額6万5千円の国民年金額が4万5千円。3割も減らされる。厚生年金でも2割ほどの削減となり、年金だけではとても暮らせない社会が作られようとしている。マクロ経済スライドは、年金を自動削減する悪魔の仕組み≠ニいえる。

 ところが安倍首相は、国会でマクロ経済スライド廃止を求める共産党の提案を「馬鹿げた案」と一蹴した。馬鹿げているのは安倍政権だ。年金を自動的に減らし、さらに支給開始年齢を引き上げる。だから、赤字を埋めるために貯金を投資に回すか、働き続けよ≠ニ言うのだ。生活を破壊するマクロ経済スライドは直ちに廃止すべきだ。

最低保障年金を公費で

 老後の生活維持と安定のために欠かせない公的年金だが、低年金・無年金問題が横たわっている。保険料納入がなければ支払われない原則である社会保険制度の「排除の論理」が問題を生み出している。

 低年金・無年金問題の原因は、非正規拡大の政策にある。非正規労働者は、厚生年金に加入できない。国民年金保険にも低賃金のため保険料を滞納しがちになる。保険料納付の免除を受けたとしても、年金額は低くなってしまう。低年金・無年金問題の解決には正規労働の拡大と賃金引き上げが不可欠だ。

 同時に、公費による最低保障年金を作るべきである。政府サイドでも制度の検討を行った事実がある。1999年の経済企画庁経済研究所編集『新たな基礎年金制度の構築に向けて』では、「高齢期における生活費のための資金を準備するのではなく、そこに公的な所得再分配制度をつくり、その制度によって当該高齢者に給付を行う」とある。

 麻生財務・金融担当大臣は「基礎年金を全額税負担に」とする論文を08年3月号の月刊誌に寄せており、また、自身のオフィシャルサイトにも同趣旨のコメントがある。民主党も共産党も、以前の公約に最低保障年金を掲げていた。最低保障年金を制度化することは可能だ。

 問題は財源だ。一部の論者と共産党を除いては消費税を財源とするが、低所得者を直撃する消費税増税は許されない。89年消費税導入以降累計372兆円に上る増税分の約8割291兆円が法人税減税に回った。この法人税や所得税などを以前の税率に戻す、不公平税制を解消する、今後5年で27兆5千億円という軍事費を抜本的に削減する。財源はいくらでもある。





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