2019年07月12日 1583号

【横行する重大な派遣法違反/派遣労働者はモノ以下の存在なのか/違法行為を野放しにしてはならない】

 派遣社員の地位の低さは一体誰が決めたのだろう。“高スキル”“高時給”で“組織に縛られない働き方”ができるはずだったのに、いつしか常用代替として二級労働者階級に属し、低賃金で長期に企業に縛り付けられるのが当たり前になってしまった。職業安定法で禁じられている派遣労働が一般化した現代日本社会の裏側で何が起こっているのか。(首都圏なかまユニオン・河村有紀子)

 私は自分の身に降りかかった契約期間途中の不当解雇事件を解決するため、首都圏なかまユニオンに加入した。この小さなユニオンでも派遣労働に関わる争議が複数進行しており、構造的な問題を感じざるを得ない。

 団体交渉の中で、派遣会社の驚くべき実態が次々と明らかになっている。

 まず、派遣事業を適正に運営するための派遣法の趣旨を派遣会社自身が全く理解していない。趣旨を理解せずに派遣法を守ることは不可能だ。

 派遣元管理台帳の無記載も明らかになった。争議当該の分だけではなく、その派遣会社に登録している派遣社員全員分の苦情処理簿が一切ない、と平気で回答してくる。

厚労省説明会でただす

 派遣法の管轄は労働局需給調整事業部。先日、厚生労働省職員による説明会で質疑応答する機会を得た。需給調整事業部は派遣先・派遣元を定期的に巡回しているが、そのマンパワーには限界があると答弁があった。

 派遣社員は、派遣法もよく知らない所属部署の管理職に生殺与奪の権利を握られている。派遣先管理職によるセクハラ、パワハラ、解雇権濫用が後を絶たない。それを防ぐ苦肉の策が管理台帳への記載であり、その内容を派遣先と派遣元が互いに通知しあって派遣社員の就業環境を守ろうとするのだが、記載する気がないのでは派遣労働者は物品以下の存在として扱われていることになる。

 苦情を申し入れても、どこにも記載されない。企業はその経過を見る気も、解決する気もない。違法行為の野放しが、「嫌なら辞めろ」「文句を言う奴は要らない」「従順に言うことを聞く人間をよこせ」といった企業態度を増長させ、劣悪な環境に耐えられる人間が来るまで延々と派遣労働者のチェンジを繰り返す。こんな恐ろしく生産性の低いことを日本企業は続けている。よい人材が蓄積されないのも当然だ。派遣社員は所属部署の管理職の好き嫌いに左右され、労働意欲を削がれ、使い捨てにされ続ける。履歴書に書いてもキャリアとして評価されない。

 これは、派遣社員個人の適応能力や職業スキルで乗り切れる問題ではない。派遣労働者がとてつもなく危険な環境で働かされていること、数千人規模の苦情処理が適切になされていないという重大な派遣法違反を国が見過ごしている事実を許していいのか。

 需給調整事業課に申告に出向いても、情報提供だと押し返されて2か月間放置される経験もした。厚労省説明会で答弁を引き出し、さらに証拠提出、抗議文送付など苦心を重ねて、やっと企業への調査に動いてもらえることになったが、このように行政は申告者の被害を矮小化し、なかなか企業への調査に動こうとしない。申告できると法律に記載してあるのに、その権利は侵害されたのである。

 厚労省説明会では、派遣先による直接雇用化のハードルの高さも浮き彫りになった。申し込みをした7178名のうち直接雇用が実現したのは2946名。厚労省は「派遣先に直接雇用を拒まれた人には派遣元が次の就業先を案内しているから措置は果たされている」と豪語していたが、本来の制度趣旨とかけ離れてはいないか。

 有期社員の無期転換権行使に対する企業の妨害行為や不当解雇について、厚労省の担当係長は「企業は法律上無期転換を拒めないが、解雇はできる。労働者側は解雇は別問題として争うしかない」という回答をした。

根本解決―派遣法撤廃へ

 行政による企業への啓発活動を信じないわけではない。しかし、様々な制度設計が破綻しているにもかかわらず、根本課題に向き合わず、労働者による個別紛争解決にゆだねて放置するというのは、余りに無責任ではないか。

 そもそもこうした法律の不備、制度の破綻は、立法府による怠慢が招いた結果だ。政治家も表面的な法整備、つじつま合わせに勤(いそ)しむのではなく、労働者の就業環境の実態を把握し、事態の根本解決に向け具体的に動いてほしい。

 派遣制度がいつしか一般化し、空気のような存在と化し、マスコミに取り上げられなくなり、派遣会社や派遣先企業に監視の目が向かず、違法行為、不法行為が蔓延して、派遣労働者の人権、生命が日々脅かされている。ユニオンの組合員、争議の当事者、一人の国民として派遣法撤廃に向けて歩みを進めていきたい。





ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS