2019年07月12日 1583号

【未来への責任(277)“私怨”で政策をねじ曲げる安倍】

 昨年10月30日の韓国大法院判決から8か月が経過した。しかし、判決は無視され、強制動員被害者の人権は踏みにじられたままだ。被害者の訴訟代理人は新日鉄住金(現・日本(にっぽん)製鉄)の韓国内の資産(株式)を差し押さえ、現金化を申請した。ただ、それはまだ先のことで、被害者は1ウォンの慰謝料も受け取っていない。

 このような中、6月19日、韓国政府は「強制徴用判決の問題、韓国政府の立場」を公表した。「訴訟当事者である日本企業を含む日韓両国の企業が自発的な拠出金で財源をつくり、確定判決の被害者らに慰謝料該当額を支払うことにより、当事者間の和解」を図るという「解決案」を示し、これを日本政府が受容するなら、外交協議に応ずる用意がある、というものであった。

 この韓国政府の「解決案」に対し、被害者の訴訟代理人団・支援団は批判声明を出した。それは(1)事実認定、謝罪を欠き、(2)救済対象を勝訴確定した被害者に限定し、(3)被害者側との協議・合意を欠いていた、との理由からである。しかし、それでも、韓国政府が自らの立場を日本政府に伝えたこと自体は、「両国間の協議を開始するための事前措置としての意味では、肯定的に評価」できるとした。

 ところが、日本政府はこれについて「韓国の国際法違反の状態を是正することにはならない」と拒絶した。直後に大阪で開催されたG20サミット。韓国からも文在寅(ムンジェイン)大統領が出席していたが、安倍首相は会談どころか立ち話すら行わなかった。強制動員問題解決に向けて、日韓政府間の協議開始を望んでいた被害者の心情は一顧だにされなかった。

 自らのILO(国際労働機関)29号(強制労働)条約違反や問題解決を促す勧告については一切無視したままで、韓国には司法判断をなかったことにせよと迫り、話し合いも拒む。安倍政権の厚顔、恥を知らぬ対応には怒りを禁じえない。

 安倍首相は、戦後70年談話で「私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と述べた。それを実現するために「慰安婦」問題については2015年12月、日韓合意を成立させ「最終的かつ不可逆的に解決される」ことを確認した。

 「徴用工」問題についても、朴槿恵(パククネ)前政権に働きかけ、大法院に被害者の請求を認める確定判決を出させないよう画策した。しかし、朴槿恵大統領が弾劾され、文在寅政権がろうそく革命で成立すると、それは頓挫した。「慰安婦」合意は見直された。大法院院長による徴用工訴訟判決の遅延策動は暴露され、10・30判決が出されるに至った。安倍にはそれが腹に据えかねるのであろう。そのために、日韓首脳会談を拒み、そして今、フッ化水素など半導体材料の韓国輸出規制にまで踏み切ろうとしている。「日韓シャトル外交」も、「自由貿易体制」も投げ捨て“私怨”のために政策をねじ曲げる。こんな安倍政権を通してはならない。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)
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