2019年07月19日 1584号

【サンダースの「カレッジ・フォー・オール法案」 4500万人の学生ローン債務帳消し/若者 YDSA の運動が背景に】

 来年の米大統領選挙に向けた民主党の候補者たちによるテレビ討論会(6/27)に先立ち、バーニー・サンダース上院議員は6月24日、他の2人の民主党下院議員とともに、「カレッジ・フォー・オール法案」(すべての人のための大学をつくる法案)を上院に提出した。これは、公立の高等教育機関の学費を無償化するとともに、全米の4500万人が抱える1兆6千億j(約173兆円)もの学生ローン債務を帳消しにするという法案である。同法案は、サンダースが4月に提出した「メディケア・フォー・オール」法案と並んで、大統領選での大きな争点となる。

 公立大学の学費無償化は、2016年大統領選挙以来のサンダースの公約だった。しかし、米国のGDPの約8%に匹敵し住宅ローン債務に次いで額の大きい学生ローン債務については、これまで、その「思い切った削減」を口にしたことはあっても、帳消しとは言わなかった。サンダースが今回の法案でさらに一歩進めて債務の帳消しを打ち出した背景には、「米国青年民主主義的社会主義者(YDSA)」(DSAの青年組織)等の学生団体が各大学で「カレッジ・フォー・オール」の実現を求める活発な運動をくり広げている事情がある。YDSAは、「万人への無償の公立の高等教育」「学生による大学の民主的な統制」と並んで「教育上の債務の帳消し」を、「カレッジ・フォー・オール」構想の柱の1つとして掲げている。

学費無償化と債務帳消し

 サンダースの今回の法案によれば、公立の4年制大学、地方政府が運営する2年制のコミュニティ・カレッジ、そして公立の職業学校等の学費が無料になる。その代わりに、これら教育機関の運営費の67%を連邦政府が、残りの33%を州政府が負担する。

 学生ローン債務については、民主党大統領候補エリザベス・ウォーレン上院議員が4月、年間の世帯収入が10万j未満の人のローンを5万jまで免除する案を発表している。しかし、これは学生ローン債務総額の約4割を帳消しにするにとどまる。サンダースの法案は、すべての債務を6か月以内に免除するという点で画期的である。各債務者は平均して年に3千jの債務返済を免れ、米国の20〜30代の青年にとってはかなわぬ夢となっていた住宅の購入も可能になるという。

 学生ローン債務の免除はまた、その債務者が多いアフリカ系の人びとの負担軽減につながる。5月にアトランタ州の大学の卒業式で、ある投資家が卒業生全員の学生ローン返済を肩代わりすると表明して話題になった。もちろん、1大学での1回限りの債務免除でしかないが、この大学にはアフリカ系の若者が数多く通学する。2016年に4年制の公立大学を卒業したアフリカ系学生のうち実に82%が、学生ローン債務を抱えていた(白人の場合は68%)。

金融取引税が財源

 学費の無償化には約6千億j、債務の帳消しには約1兆6千億jもの費用がかかり、合計では2兆2千億jに達する。この財源として法案が予定しているのは、金融取引税である。すなわち、株の取引に0・5%、債券の取引に0・1%、デリバティブ(金融派生商品)の取引に0・005%という低率の税を課すのだ。これにより、法施行の1年目で約2200億jの税収が見込まれ、10年間で2兆4千億jになる。こうした低率の金融取引税には、投機を目的にした高速取引を規制する効果も見込まれる。

 2008年リーマン・ショックのあと、米国の民間金融機関は財務省から7千億j、中央銀行である連邦準備制度から16兆jもの米国史上で最大の金融支援を受けた。「今度はウォール街のほうが社会に対して損害賠償をする番だ」と、サンダースは強調する。学生ローンの返済に最も苦しんでいるのは、リーマン・ショックのあとに大学に入学したり、大学を卒業したりした世代なのである。

 サンダースの法案に対して、ジェフェリー・サックス(コロンビア大学教授)をはじめ100名を超える経済学者たちが6月26日、さっそく支持の書簡を公表した。債務返済のために個人がこれまで1年間に支払っていた3千jを他のサービスや財を購入するために支出するなら、それは「〈米国〉経済全体のためになる」と、書簡は述べている。

 「カレッジ・フォー・オール」は、公的な高等教育を利潤の追求から切り離し、すべての人の権利として、共有財として再確立する取り組みである。そして、その実現は何よりも草の根の運動の広がりにかかっている。





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