2019年07月19日 1584号

【コラム見・聞・感/一道民として丸山発言への怒り】

 「戦争でこの島を取り返すことは賛成ですか。反対ですか」。「北方領土参加団」とともに現地を訪れた維新議員・丸山穂高による暴言にあきれるとともに、1人の北海道民として怒りがこみ上げた。

 2015年5月、筆者は旅行で北海道最東端の根室を訪れた。根室駅に降り立ち、バスでさらに1時間。ようやく根室半島突端の納沙布(のさっぷ)岬に着く。小さな食堂が1軒あるだけの最果ての地は夏でも寂寥(せきりょう)感がある。凍てつく冬なら来るだけで心が折れそうだ。

 納沙布岬から最も近い歯舞(はぼまい)諸島の貝殻島まではわずか3・7`。体力に自信のある人なら「泳いで行ってやる」と腕まくりを始めるかもしれない。貝殻島や水晶島は見える日が比較的多い。

 手を伸ばせば届きそうなこれらの島々を「近くて遠い島」にしてしまったのは紛れもなく戦争だ。1945年8月、参戦した旧ソ連は、カイロ宣言の領土不拡大方針を否定し領土拡張に踏み出した。だが、島民に苦難を強いた第一義的責任は、アジア侵略戦争を引き起こした日本にある。

 日本政府は戦後補償の一環として速やかに元島民らの訪問事業を実施すべきだった。それが遅れたのは「元島民らにビザを発給すれば、北方領土が外国の領土だと認めることになる」という外務省のつまらないメンツのためだ。

 千島(クリール)列島は第二次大戦後も旧ソ連〜ロシアによる経済開発が遅れた。北海道ほどの生活水準に届いていない現在の島々に、言葉の通じない不便を押してまで戻りたいという元島民は今、それほど多くない。高齢化する元島民たちの一番の希望は、島に残してきた先祖代々の墓にいつでも自由にお参りできるようになることだ。

 メンツを捨てきれない外務省、訪問を願う元島民らの間で、千島歯舞諸島居住者連盟などの関係者が血のにじむような努力をしてようやく手にしたビザなし渡航。現地は天候が荒れやすく、出発当日に渡航が中止になることも珍しくない。この6月15日の予定だった訪問も高波で中止になった。北海道のテレビでは、悔し涙に暮れる元島民の姿が映し出される。丸山議員は関係者のこうした努力、無念を知っているのか。自分の暴言でビザなし渡航ができなくなったら責任を取れるのか。

 4月地方選後の札幌市議会。議長選挙で仮議長を降りたくないと居座り続け、8時間以上も審議を空転させた市議が除名で失職した。市民の間で賛否両論だが、憲法9条を公然と否定しながら開き直る丸山議員こそ辞任しないなら除名にしてでもけじめをつけるべきだ。   (水樹平和)
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