2019年07月26日 1585号

【発足32年 限界迎えたJR 再編は急務/利益優先から安全性、公共性重視へ転換を】

 国鉄分割民営化から32年。国がメディアを使い「成功」と大宣伝したJRも今や綻(ほころ)びだらけだ。再建にどのような視点が必要か。 

予定通りの開業絶望

 国鉄末期、職員局長として「改革」反対派労働者の大量首切りを行った葛西敬之が今なおトップに居座るJR東海。「アベ友」として有名な葛西が国から3兆円の支援を取り付けてまで建設を進めるリニア中央新幹線だが、予定通りの開業(2027年)はすでに絶望的だ。工事で出る膨大な残土の処理場所などの課題は解決のめどが立たない。

 現在、大きな壁として立ちはだかっているのが静岡県との協議。南アルプストンネル工事による大井川の流量減少問題だ。県は、2011年にJR東海の建設計画に、大井川の流量を維持するよう釘を刺している。品川〜名古屋間285・6キロメートルのうち静岡県内を走るのは約11キロメートル。約4%しかなく、すべてトンネルで駅もないのに、静岡県民が水源にしている大井川の流量が毎秒2トンも減少する。JR東海は「流量減少分はすべて元に戻す」としながら具体的方法は示さない。

 JR東海は今年5月「このまま未着工が続くなら開業時期に影響する」と発言。川勝平太静岡県知事は「開業時期ありきの発言は無礼千万」「もし水が止まるなら静岡県民はリニアの線路に座り込む」と反発。着工は見通せない。

 今年5月には、山梨県南アルプス市でも沿線住民が建設差し止め訴訟を起こした。名古屋市では、地上への非常口の工事が地下水の湧出により昨年12月から中断している。想定外の事態が次々と発生しており、工事費が3兆円でもまったく足りないと指摘する声もある。


北海道で続く廃線危機

 北海道では、JR北海道単独では維持困難な線区(10路線13線区)が公表されて3年近くが経つ。JR北海道がバス転換を表明した5線区のうち、今年3月に実行されたのは石勝線夕張支線(新夕張〜夕張)。来年5月には、札沼線(北海道医療大学〜新十津川)が決まっている。残る3線区(留萌本線深川〜留萌、根室本線富良野〜新得、日高本線鵡川〜様似)は地元が同意する見通しは立たない。

 この3線区に共通するのは「本線」であることだ。根室本線は国鉄時代、特急や貨物列車が頻繁に走った歴史を持つ。日高本線は全線が146・5キロメートルもあり、博多〜長崎間にほぼ匹敵する。今行われようとしているのはローカル線ではなく本線の廃止だ。大動脈である幹線の廃止は、北海道内の社会経済に致命的打撃を与える。

 JR北海道は、10月の消費税率引き上げに合わせた運賃大幅値上げを国に申請した。平均で11%、最大30%にもなる。定期券の値上げ幅が大きいなど移動手段の選択権を持たない交通弱者に負担を強いるものだ。7月1日に国の運輸審議会が札幌市で開催した公聴会では3人の一般公述人全員が値上げに反対。市民団体「安全問題研究会」の地脇聖孝代表は「そもそも国鉄分割の仕方に問題があり、JR会社間格差を放置したままの値上げは認められない」とJR再編を訴えた。

 こうしたJR再編に反対しているのも葛西だ。「日本中に道路ができた今、鉄道を道路に転換しなければならない」と廃線を公然と容認。「経済原則に反するから全国を1本に戻そうということにはならない」とし、北海道を救済しないのかとする記者の質問を「愚問」と決めつけた。JR北海道の鉄道を廃線から守るためにも「アベ友」葛西打倒が必要だ。それは、1人もJR職場に戻れなかった被解雇者1047名への責任を果たすことでもある。

ZENKO分科会で議論

 7月26〜28日に開催される「2019ZENKOin東京」の第12分科会「JRの公共への転換をめざして」では、JRをめぐる問題が議論される。地元住民が存続を望む生活路線は躊躇なく廃止され、住民には不要な利権のための路線は強引に建設されていく。住民不在のJRから、建設や存廃の是非が市民の意思で決まる民主的な公共交通への転換をどう進めるのか。熱い討議が期待される。

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