2019年07月26日 1585号

【住民・避難者は屈しない ほころびる原発事故隠ぺい工作】

 安倍政権は、2020年の東京オリンピックを「復興五輪」と銘打ち、世界のアスリートまで巻き込んで、福島原発事故を過去のもの≠ニすべく隠ぺい工作を行なってきた。だが、その企みは住民の反対でほころびを見せ、思い通りには進んでいない。

次々に避難指示解除

 安倍政権は、2014年4月の福島県田村市を皮切りに、2017年4月までに川内村、楢葉町、葛尾(かつらお)村、南相馬市、浪江町、飯舘(いいたて)村、川俣町、富岡町の避難指示解除準備区域と居住制限区域の避難指示を次々に解除した。そして、今年の4月には大熊町の避難指示解除準備区域と居住制限区域の避難指示を解除した。

 福島県によれば、2013年8月に約8・1万人いた避難指示区域からの避難対象者は、2017年4月には約2・4万人に減った。しかし、河北新報の調べによると、今年の4月時点で、避難指示解除の9区域の居住率(対象者のうちで実際に帰還した人の割合)は全体で23・2%にすぎず、浪江町は6・2%、富岡町は9・4%にすぎない。

 どの地区でも、帰還住民は高齢者が中心で、子育て世代は放射線に対する不安から帰還をためらう傾向があるという。それもそのはずで、公衆の放射線被ばく限度は年間1_シーベルトだが、避難指示解除の基準となる放射線量は年間20_シーベルト未満であり、福島県民だけは法定限度の20倍の被ばくを強要されているからだ。

 避難指示が解除された1年後には賠償金が打ち切られ、自主避難者≠ニ呼ばれる区域外避難者と同じ境遇に置かれるのだ。

 安倍政権の避難指示解除強硬策は、新たな自主避難者≠作り出している。

全国で被害者集団訴訟

 安倍政権は、3月末で県外避難者に対する住宅提供(有償)を含む一切の支援を打ち切り、避難者そのものの存在をなきものにしようとしている。しかし、避難者たちは全国各地で約30件にのぼる集団民事訴訟を起こし、国や東電の責任を問い、被害に対する賠償を求めて闘っている。

 これまでに10件の判決が出ており、国の責任を問うた8件のうちの6件で国の責任が認められ、賠償が命じられている。ポイントは、(1)大津波が来ることは予見できた、(2)津波対策を講じていれば、今回のような事故を回避できた、という2点だ。国は控訴審で必死に巻き返しを図っているが、その主張は一審で自ら否定してきたもので、一貫性に欠け成功していない。

 避難者の集団訴訟は、避難者が存在していることを世間に示し、安倍政権の企みに真っ向から対決するものだ。支援を広げなくてはならない。

モニタリングポスト存続

 安倍政権がやろうとした隠ぺい工作の一つが、福島県内に設置した放射線監視装置(モニタリングポスト。以下、MP)の撤去だ。

 約3千台のMPのうち、避難指示区域を除いた地域にある約2400台を2020年度末までに撤去しようというのだ。原子力規制委員会は「線量は低く安定し、連続的に測定する必要性が低くなった」と言うが、実際は、来日する外国人の目に触れないようにし、住民に「放射線量を気にしない生活」を強制するのが狙いだ。

 この方針が発表されると「MPは住民が線量を目視できる唯一のもの。私たちの『知る権利』がそこにある」と「モニタリングポストの継続配置を求める市民の会」が結成され、署名活動や自治体要請行動に立ちあがった。各地で開かれた住民説明会では反対の声が圧倒し、多くの自治体から撤去反対の意見書が上がった。中京大の成元哲(ソン・ウォンチョル)教授らが実施した調査(避難区域に隣接する9市町村に住む母親が対象)では、「反対」と「どちらかといえば反対」が合わせて64%に達した。

 こうした声を受けて規制委員会は5月29日、撤去方針を撤回し、当面は現行の測定態勢を存続させると表明せざるを得なくなった。

 安倍政権にとって、増え続けるトリチウム汚染水は目の上のたんこぶのような存在だ。規制委員会の更田(ふけた)豊志委員長は早くから「水で薄めて海に放出するしかない」と提言してきた。そのため、トリチウムは人体には無害との安全神話が流されてきた。

汚染水の海洋放出ノー

 しかし、地元の漁業組合は海洋放出に反対してきた。昨年8月に浄化したとされる処理水に、トリチウム以外にもストロンチウム90(基準の2万倍)などの放射性物質が含まれていることが明らかになり、公聴会では意見発表したほぼ全員が放出に反対した。

 5月にNHKと東京大学などが水産関係の流通業者を対象に実施したアンケートでも、7割近くが放出に「反対」。6月には全国漁業共同組合(全漁連)の大森敏弘常務理事が「海洋放出すれば、復興に向けた努力が水の泡になる。当面はタンクで長期保管すべきだ」(6/5読売)と表明した。汚染水の海洋放出は行き詰まっている。

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 すでに明らかになっている小児甲状腺がんの多発の原因について、7月8日の県民健康調査検討委員会で星北斗座長は「被ばくとの関連は認められない」とのまとめを採択しようとしたが、委員から反対や疑義の声が上がり、星座長が修正文を作ることになった。あらゆる分野で声を上げ、安倍政権の企みを打ち砕こう。



 
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