2019年07月26日 1585号

【ドクター林のなんでも診察室 製薬会社の野望で高血圧「基準」変更】

 友人から「最近、高血圧の基準が変わったらしいなあ、びっくりするわ」と。びっくりしたのは友人だけではありません。なにしろ、血圧が収縮期140mmHg/拡張期90mmHg(以下140/90)以上だけでも、約4300万人、うち治療中が2450万人。これだけの人に血圧の目標を130/80未満に下げるというのですから。

 これは大変なことです。イギリス医師会雑誌の論文では、「高血圧症」がアメリカで26・8%増加し、45歳から75歳までの人口に対する割合が63%となるのです。日本でもアメリカのように26%増えれば5400万人ほどが治療対象者になり、降圧剤市場が大幅に増加します。日本では、2013年に1兆円弱の売り上げの降圧剤が、17年には6600億円に減っています。「患者」を水増しすることで、法外な利益を回復するのがグローバル製薬企業の野望だと思われます。

 では、「高血圧患者」にとって降圧剤とはどんな利益があるのでしょうか? 薬で160未満にした方が「死亡」を減らした科学的な証拠はありません。イギリス国立衛生研究所などの資金による研究でも、血圧が140/90から160/100未満の人を約3万8千人追跡した結果、5・8年間に死亡した人は降圧剤使用群4・49%、使わない群4・08%で、心臓血管系の病気も降圧剤群が薬なしより1・09倍多かったのです。これらは統計的有意差はなしでしたが、副作用である危険な「失神」は薬使用群が1・28倍多く、有意差ありでした。160/100未満でさえ薬は不要なのです。

 というわけで、今回のガイドラインは、製薬企業と医療機関に利益を、患者と健康保険財政に多大な害をもたらすものです。

 実は、この「130/80」は17年11月にアメリカ心臓協会が決定したものです。これには、強い反対意見があり、昨年6月発表の欧州高血圧治療ガイドラインでは、高血圧症かどうかの「基準値」は140/90に据え置かれました。しかし、薬剤を使う可能性の強い治療の「目標値」はアメリカ基準に追随しました。日本の19年4月発表のガイドラインも、同様に「基準値」140/90、治療「目標値」130/80にし、製薬会社の野望が世界で通りました。

 世界の医学界を支配しているのは、製薬世界企業とその最も強い影響下にあるアメリカの学会です。2019ZENKOin東京に参加されるDSA(アメリカ民主主義的社会主義者)が提唱している全国民を対象とした公的医療保険制度は、アメリカ医療を支配する医療保険会社と製薬企業の横暴を制限する闘いでもあります。この意味でも、DSAの政策と闘いは世界的な意義を持っていると思われます。

    (筆者は、小児科医)
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