2019年08月02日 1586号

【安倍の「嫌韓」大作戦/排外主義を煽るトランプ流選挙術/重要争点を隠すことに成功】

 選挙に勝つために排外主義を煽る―。トランプ米大統領の得意技を安倍政権は今回の参院選で駆使した。半導体材料の輸出規制発動など韓国に対する強硬姿勢を打ち出し、アピール材料にしたのである。それが自民の得票に結びついたかどうかは別として、メディアを巻き込んだ「韓国叩き」には、本来の重要争点をかき消す効果があった。

本家トランプの場合

 排外主義の煽動と言えば、米国のトランプ大統領である。これまでも女性や非白人マイノリティらへの差別的な言動をくり返してきたが、いま問題になっているのは民主党の女性下院議員4人に対する攻撃だ。移民政策をめぐる自身のツイート(7/14)の中でトランプはこう主張した。

 「民主党の“革新系”女性議員は、世界で最も腐敗し、機能しない国から来ているのに、米国の人びとに対し、政府はこうあるべきだなどと大声で罵倒している」「もともといた国に帰って、犯罪まみれの国を直すのを手伝ったらどうか」

 トランプが攻撃の矛先を向けたのは、プエルトリコ系のオカシオコルテス議員や元ソマリア難民のオマール議員ら4人。いずれもトランプの移民政策を厳しく批判してきたという経緯がある。米下院は7月16日、「新たな米国人と有色人種への恐れや憎しみを正当化した」として、トランプ発言を強く非難する決議を可決した。

 だが、トランプは「多くの人びとが私を支持している」と開き直り、差別煽動をくり返している。来年の大統領選挙に向けた支持者集会(7/17ノースカロライナ州)でも4人を名指しで攻撃。集まった聴衆は「センド・ハー・バック(彼女を送り返せ)」の連呼で応えた。

 トランプにとっては、保守主義者や白人ブルーカラー層の支持をつなぎとめることが、再選戦略の肝である。だから何と言われようが、移民排斥の姿勢を執拗にアピールし続けているのである。

印象操作の効果絶大

 日本の話に移る。安倍晋三首相は今回の参院選において、「トランプ化」と揶揄されるほどの排外主義煽動をくり広げてきた。公示日にあわせて発動した韓国への輸出規制強化である。元徴用工訴訟との関連を政府は表向きには否定したが、裏では「報復措置」であることを官邸幹部が御用メディアに示唆し、煽り記事を書かせてきた。

 さらに、首相最側近の萩生田光一・自民党幹事長代行が「行方の分からない化学物質がある」とテレビ番組で発言。これを機にメディアは「北朝鮮への横流し疑惑」を報じ始めた。「化学兵器のサリンなどに転用される可能性もある」(7/9NHK)「金正男(キムジョンナム)暗殺に使われたVX神経ガスの原料が不正輸出された」(7/10フジテレビ)等々。

 実際のところ、日本政府は「韓国政府の輸出管理に不適切な事案があった」というだけで、その内容は一切明かしていない。経済産業省は日韓事務レベル会合(7/12)の場で韓国側に説明を求められ、「第三国への横流しを意味するものではない」と答えたという(7/13産経)。

 だが、印象操作の影響は絶大だった。各種世論調査をみると、「輸出規制」に賛成の意見が慎重論や反対論を大きく上回っている。産経新聞とFNNの調査(7/14〜15実施)では、日本政府の対応を「支持する」との回答が70・7%に上った(「支持しない」は14・9%)。「韓国は信頼できる国だと思うか」の問いには74・7%が「思わない」と答えている。

 こうした嫌韓ムードの高まりは、参院選対策として韓国への対決姿勢を打ち出した安倍政権にとって、狙いどおりの結果であった。

韓国叩き演説を指示

 毎日新聞の報道(7/5付)によると、自民党の幹部は参院選の候補者らに対し、演説などで韓国への輸出制限強化に触れるよう指示を出したという。自民党の若手立候補者は次のように証言する。

 「韓国に対して毅然とした態度をとるのが当たり前、と演説すると、地方に行けば行くほど拍手が湧くんです。自民党支持者はもとより、特定の支持政党がない有権者に対しても、このメッセージは効果があります。公衆の面前で他国を叩くことは、やや抵抗がありますが、安倍首相が先頭に立って発言をされているので、いわばお墨付きをもらった気持ちです」(「AERA」7月22日号)

 河野太郎外相が駐日韓国大使を呼び出し、テレビカメラの前で「極めて無礼だ」と語気を強めた(7/19)のも、2日後の投票日を意識したパフォーマンスであった。

 こうした「韓国叩き」が自民党の議席獲得にどれだけ寄与したのかはわからない。しかし、消費税増税や年金問題そして安倍改憲の狙い(9条の死文化)など、安倍政権に不利な争点を隠す役割を果たしたことはたしかである。

   *  *  *

 排外主義を煽る政治手法の危険性は歴史が証明している。それはヘイトクライム(憎悪犯罪)や集団虐殺、戦争へと導くものだ。差別感情を増幅させて支持を得るトランプや安倍の政治を許してはならない。   (M)



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