2019年08月09日 1587号

【未来への責任(279)どちらが「無礼な態度」なのか】

 日本政府はこれまで、日韓請求権協定で消滅したのは外交保護権であり個人請求権ではない、と説明してきた。1990年代にアジアから日本の戦争責任追及の声が上がり、数多くの戦後補償裁判が起こされる中、柳井条約局長(当時)は「個人の方々が我が国の裁判所にこれを請求を提起するということまでは妨げられていない。その限りにおいて、そのようなものを請求権というとすれば、そのような請求権は残っている。現にそのような訴えが何件か我が国の裁判所に提起されている。ただ、これを裁判の結果どういうふうに判断するかということは司法府の方の御判断によるということでございます」(1992年)と答弁した。政府は「完全かつ最終的に解決した」のは外交保護権で、個人請求権は消滅していないとの判断に立っていた。つまり今回の大法院判決は国際法(日韓請求権協定)上も十分ありうる想定内の判決であったはずだ。また、三権分立の立場から韓国政府が「司法府の判断」を尊重するのも法治国家として当然なことである。これを「国際法上ありえない」という安倍首相の発言は「フェイク発言」である。

 日本政府は、請求権協定に基づく外交協議、仲裁委員会の設置、委員の選出を求めたにもかかわらず韓国政府は一切応じないと主張している。しかし以前、韓国の憲法裁判所が韓国政府に対し、日本軍性奴隷問題と在韓被爆者問題について請求権協定に基づく協議を日本政府と行わないのは違憲であるとの判決を出したのを受けて韓国政府が協議を申し入れた時に日本政府は応じなかった。請求権協定第3条第1項は紛争の外交手段による解決を規定しているが、いつ開始しなければならないかは規定していない。韓国政府が「協議に応じない」とは言っていないにもかかわらず日本政府は一方的に仲裁委員会の委員を任命し、期限を切って韓国政府に回答を迫った。

 これに対し韓国政府は、一方的に期限と決められた6月19日になって、日韓両国の関係企業が「基金」をつくり被害者に慰謝料該当額を支払うことを日本政府が受容するなら外交交渉を開始すると回答した。この提案に対して日本政府は「韓国の国際法違反の状態を是正することにはならず、この問題の解決策にはならない」と一蹴しただけでなく、韓国側の立場を説明しようとした南官杓(ナムグァンピョ)駐日大使に対し河野外相は「極めて無礼」などと、それこそ「無礼な態度」をとった。この強引な日本政府のやり方をマスコミは垂れ流すだけだった。

 7月1日、日本政府は半導体製造などに必要なフッ化水素など3品目の韓国向け輸出について「規制」を行うと発表した。韓国の半導体製造業が大きな影響を受けることから韓国内ではこの措置に対して急速に反発が広がり日本製品の不買運動や日本への渡航自粛などが呼びかけられた。安倍政権の垂れ流す「嘘」によって最も「実害」を受けているのが、大法院判決で勝利したのに補償金がいまだに受け取れない唯一の日鉄生存者原告、李春植(イチュンシク)さんである。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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