2019年08月16・23日 1588号

【検査緩和で設備利用率アップ 高まる原発事故の危険性】

 安倍政権が公表している2030年度時点での電源構成(ベストミックス)では、原子力発電は「ベースロード電源」と位置付けられ、その比率が全体の20〜22%とされている。だが、すでに認可済みの東通原発、島根原発を除けば原発の新増設が見込めない中で、この比率を達成するには既存の原発を活用するしかない。その一つが、運転開始から40年を迎える老朽原発の継続運転(期間延長)だ。もう一つが、検査を緩和して再稼働した原発の設備利用率をアップすることだ。

検査制度を大幅に改悪

 2017年4月に原子炉等規制法が改定されて、2020年4月から新検査制度が実施されることになっており、原発の検査制度が根本的に変わろうとしている。

 第一に、これまで原子力規制委員会が行なうことになっていた運転開始後の施設定期検査は廃止され、事業者による定期事業者検査に変わる。事業者は検査結果を記録し、設備等に亀裂などが見つかった場合は、その設備の「健全性評価」を実施し、その結果を国に報告する。規制委員会は自ら合否判定をせず、事業者の「保安活動全般を包括的に検査」するのだという。

 第二に、これまで原発は13か月ごとに定期検査に入ることになっていたが、それを最大24か月まで延長することができるようになる。

 第三に、検査の結果、なんらかの設備等の劣化が見つかった場合、これまでは原発を停止し、部品を交換するなどして「新品同様」に直していた。新制度では、その劣化が「安全機能を損なわない限り」、次の検査までそのまま運転することが許される。

 第四に、直接運転に関係しない機器の分解検査は運転を止めずに実施できることになり、ポンプ、モーター等の振動傾向分析、潤滑油成分の傾向分析、音響による弁漏洩監視などコンピューターによるオンライン検査も可能になる。

 これらの変更に伴い、事業者にとってどんなメリットが生じるのか。これまでの検査制度は、運転期間が13か月経つと定期検査に入り、3か月ほど運転停止になるため、特に異常が見つからなかった場合で約81%の設備利用率だった。これが、定期検査の間隔延長(最大24か月)と定期検査期間の短縮(運転中に行なう検査やオンライン検査による)で設備利用率は95〜96%となり、これに出力増強を加えると100%(これまでの出力でフル回転)を超えることも可能となる。

劣化していても運転継続

 この検査緩和は、老朽原発の40年を超えての運転延長に先取りして適用されている。長期間強い中性子を浴びた原子炉は脆(もろ)くなり、緊急停止に伴う急激な冷却・温度変化に耐えられなくなっていく(脆性(ぜいせい)劣化)。科学的な作用による配管の腐食や熱(膨張と収縮)、振動を繰り返し受けることによる金属疲労も起きる。

 認可に必要な特別点検といっても、原子炉容器そのものを開けて中を点検するわけにはいかない。結局、格納容器の鋼板の腐食を接近できる範囲から目視で確認するだけだ。もし、亀裂や劣化が見つかっても、すぐに取り替えたりする必要はない。その個所が、計算上例えばあと20年は技術基準適合状態を維持できると判定されれば、20年以内に補修・取り替え工事をするという計画を策定すれば継続して運転してもよいというのである。事故の危険性がこれまで以上に高まることは確実だ。

原発に未来はない

 安倍政権が示すこの「ベストミックス」については、経団連の中からも異論が出ている。7月に行なわれた経団連の夏季フォーラムで、丸紅の国分文也会長は「これが本当にベストなのか?」と疑問を呈し、再生エネルギーの普及を進めるEUを挙げ、「日本は原発にどんどんコストをかけている。グローバルな方向と逆に向かっているのでは」と指摘した(7/23朝日)。

 安倍政権の原発輸出戦略が原発の安全対策費の増加で破綻したように、原発による発電コストは安いどころか、むしろ高いというのが世界の常識になっている。原子力ムラや安倍政権が固執する原発に未来はない。

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