2019年08月16・23日 1588号

【ZENKO強制動員問題分科会/大法院判決に向き合い、話し合い解決を/全面解決に向けた「基金」構想を提案】

 対立のエスカレートが危険な領域に入ってきた日韓関係。その発端は、韓国人元徴用工訴訟判決に対する安倍政権の悪質な攻撃であった。「韓国は嘘つき」といった「嫌韓」ムードが煽られる中、戦時強制動員被害者の人権回復をどう図っていくのか。7月28日に行われたZENKOin東京第6分科会では、このテーマで議論が交わされた。

和解の先例はある

 昨年10月の韓国大法院判決で損害賠償を命じられた日本製鉄(当時新日鉄住金)は6月25日、定期株主総会を開催した。日本製鉄元徴用工裁判を支援する会が事前に出していた質問状に対し、会社側は「適切に対応する」との定型コメントで回答。一部株主からは「不当な賠償請求にビタ一文払うな」といった発言がくり返され、会場から拍手が起きたという。

 分科会の基調報告を行った「支援する会」の山本直好さんは、確定判決を無視し続け、原告側の話し合い要求にも応じない日本製鉄の姿勢を「法令順守を掲げる自らの企業行動規範に反している」と厳しく批判した。また、「日韓の裁判所が事実認定した『違法な強制労働』を解決するには、大法院判決と向き合い、被害者と加害者が話し合いのテーブルに着くしかない。戦後補償裁判を和解で解決した先例はある」と訴えた。

 続いて、強制動員真相究明ネットワーク事務局長の中田光信さんが報告を行った。中田さんは、大法院判決に対する日本政府やメディアの極端な姿勢の背景には、植民地主義と排外主義を克服できていない日本社会の問題があると指摘。大法院判決を克服の手掛かりにしなければならないと強調した。

韓国政府提案の評価

 韓国政府は6月19日、大法院判決に対する初めての提案を発表した。その内容は「訴訟当事者である日本企業を含む日韓両国の企業が自発的拠出金で財源を構成し、確定判決被害者に慰謝料相当額を支給することにより、当事者間の和解が行われる」というもの。この提案を日本政府はただちに拒否した。

 強制動員被害者の代理人団や支援団体は以下の「懸念」を表明している。(1)歴史的事実を認めることや謝罪について何の内容もない(2)判決未確定者や訴訟手続を行っていない被害者を含む包括的な協議を要請してきた被害者の声を全く反映していない(3)被害者や支援団体と十分な議論もせずに発表した。

 ただし、「両国間の協議を開始するための事前措置」という意味では「肯定的に評価することができる」とも述べている。強制動員問題解決と過去清算のための共同行動・日本側事務局の矢野秀喜さんは、強制動員被害者の高齢化という現実を踏まえ、被害者の納得と合意を前提に全体的解決に向けた基金(財団)構想を具体化するときに来ていると提案した。

世論を変える必要

 安倍政権が「嫌韓」ムードを煽る中、日韓関係は過去最悪の状態と言われる。日本軍「慰安婦」問題を象徴する少女像などを展示した企画展が政治家やネット右翼の圧力によって中止に追い込まれるなど、日本国内では侵略戦争や植民地支配の事実に触れること自体が「日本人の心を踏みにじる」(河村たかし名古屋市長)として排斥される風潮が強まっている。

 矢野さんは「強制動員問題への関心と理解を深め、問題解決に向けて社会的な機運を醸成していくこと抜きには日本企業や政府を動かしていくことは困難だ」と強調する。実際、日本では日韓の感情的対立ばかりが強調され、肝心の被害者救済がまったく無視されているのが現実だ。

 分科会参加者は「安倍政権の『経済制裁』に対して、大法院判決の意義を広く訴えて世論化していく」「強制動員問題の全面解決に向けた『基金』の実現をめざす」などを柱とする決議を確認した。



ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS