2019年08月16・23日 1588号

【新・哲学世間話 田端信広 なぜ、若者は投票に行かないのか】

 先の参院選の投票率は、選挙区、比例代表ともほぼ48・80%で、1995年の44・52%に次ぐワースト2位の結果になった。とりわけ深刻なのは、若者の低投票率である。18・19歳の投票率は31・33%(速報値)で、18歳選挙権が始まった2016年参院選より15ポイントも低下した。20歳代の投票率も、全体を20ポイント近く下回る傾向が続いている。

 まず押さえておかねばならないのは、問題は若者だけにあるのではないということだ。欧州主要国(イギリス、ドイツ、フランス)の直近の国政レベルの選挙の全体投票率が69〜76%ほどであるのと比べれば、国政選挙で50%を割った日本の全体投票率自体が問題なのである。

 それでもやはり、若者の低投票率問題は特別な関心の的になる。この問題について、メディアでさまざまなコメントが伝えられる。ある社会学者曰く、「“失敗”への恐れと諦め」が若者の意識を覆っている、と。これは、従来から言われてきた「若者の政治離れ」や「政治的保守化」といったおきまりの評価と軌を一にしたものだ。こうした評価は、「結果」(その一部分)を切り取ってはいても、その「原因」、若者はなぜそうなったのかを論じていない。ここからは積極的展望と解決の方向は見えてこない。

 なぜ、若者は投票に行かないのか。ひいては、彼らはなぜ社会的行動に積極的でないのか。彼らに社会と政治の現状に対する不満や批判があるにもかかわらず、なぜ「動かない」のか。

 この問題を考えるとき、「年配者」がつい忘れがちなことがある。それは、若者が生まれたとき、もうすでに日本には活発な生徒会運動も学生自治会運動も、そして職場で目に見える労働運動もなかったということである。事の一面化は避けねばならないが、こうした事実は決定的に重要であるように思える。

 「年配者」層は多少なりともささやかな「成功体験」を共有している。彼らは、「声をあげ」人と協働して「動く」ことで、自分たちの要求を実現し、生活環境を現に変えることができた経験を共有している。日本社会は、この「成功体験」を若者たちから奪い続けてきた。

 その結果が、「無関心」であり「諦め」なのである。よって、低投票率問題は単に若者の意識の問題ではなく、社会的問題なのである。だとすれば、問題解決の方向は一つしかない。若者が、たとえささやかであれ、そうした「成功体験」を味わえること、彼らとその「経験」を共有すること、そのための機会をさまざまな時と場所で設定することであろう。

 百の説教や能書きを垂れるよりも、決定的に重要なのは、こうした問題での「成功体験」を若者の間で創り出し、それを彼らと共有することである。

    (筆者は元大学教員)
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