2019年08月30日 1589号

【「ホルムズ海峡派兵」にみる経済権益争い/安倍政権の狙いはアフリカ】

 米トランプ政権が呼びかけるイラン包囲の「有志連合」。英国新政権の参加表明はあったものの、表立って進んでいない。とはいえ、軍事緊張を利用したグローバル資本間の権益争い、各国政府の思惑が透けて見える。安倍政権は軍事緊張を利用し、アフリカをにらんだ海外派兵増強を狙っている。日本と同様に軍拡を進める韓国文在寅(ムンジェイン)政権も同じだ。

「有志連合」進まず

 米トランプ政権がもくろむ「イラン包囲網」はいまだに形を見せない。各国政府にとって「親米」を表明することが必ずしも「得」になるとは限らないからだ。

 そんな中で、英ジョンソン新政権が8月5日、主要国としては初めて「有志連合」参加を表明し、トランプとの一体化をアピールした。その一方で、英領ジブラルタル自治政府が拿捕したイランのタンカーを8月15日解放させ、帳尻を合わせた。

 トランプ政権は、ジブラルタル自治政府が解放したイランタンカーの差し押さえ令状を米裁判所からとるなど、「緊張の維持」に必死だ。オバマ前大統領の「手柄」に対抗する大統領再選戦略上からも、イラン核合意破棄、イラン包囲の構図を崩すわけにはいかないのだ。

 そして各国政府もこの「軍事緊張」を利用しようと、それぞれの思惑を抱いている。


軍事緊張を利用

 安倍政権はどうか。8月7日初来日したエスパース米国防長官から「航行の自由に関心のある国はどの国も海峡の監視活動に関わるべき。真剣に検討するべきだ」と強く派兵を迫られた。岩屋毅防衛相は、「同盟国米国との関係、イランとのこれまでの友好関係。総合的に判断していきたい」とメディアに語った。同盟国米国と友好国イランの両方の顔を立てるのだという。

 安倍政権が検討しているのは、イラン沖のホルムズ海峡ではなく、東アフリカのジブチとアラビア半島イエメンの間のバブル・マンデブ海峡だ。年間約2千隻の日本関連船舶がこの海峡を通過する。「航行の安全確保のため」の「有志連合」参加の形がとれ、イランへの直接的な軍事圧力にはならない、というわけだ。

 「有志連合」はペルシャ湾、オマーン湾も活動範囲に想定し参加への間口を広げている。この海域は、「対テロ戦争」の一環として組織された「連合海上軍(CMF)」(33か国が参加。司令官米中央海軍)の活動範囲の中にある。この連合海上軍の下にある4つの連合部隊がインド洋からアラビア海、ペルシャ湾、アデン湾、紅海で任務を分け合っている。

 ソマリア沖で海賊対処を任務とする第151連合部隊の司令官は2015年から18年まで海上自衛隊が担った(現在は韓国)。自衛隊は「海賊対処法」をもとにこの連合部隊に加わり、「ソマリア沖・アデン湾」で活動している。バブル・マンデブ海峡はアデン湾と紅海をつなぐ海峡で、自衛隊の活動としてはほとんど変わらないことになる。

 一方、安倍政権と対立を深める韓国政府は「アデン湾域で活動する部隊の作戦区域をホルムズ海峡まで広げる方法で派遣を決めた」(8/15東亜日報)。アラブ首長国連邦などのペルシャ湾沿岸国と経済協力などの関係にある韓国も対イランの矢面に立つつもりはないが、トランプとの距離を縮める考えだ。5年間で約25兆円の軍事費を積み上げ、日本の「いずも」を超える空母の導入をめざす文政権。韓国グローバル資本の意思を酌んで、増派の機会を狙っている。


ジブチ基地の増強

 安倍政権は、いまのところ自衛隊をジブチ周辺海域にとどめるとされる。「イランへの義理立て」だけが理由ではない。狙いは別にある。

 安倍首相は6月、米イラン間の仲介役を買って出た。イラン訪問中に起きた日本関係のタンカー攻撃もイラン批判には使わず、親イランの姿勢をアピールした。安倍政権の狙いは、「有志連合」に加わりながら、ジブチに築いた唯一の海外基地をいかに有効活用するかにある。

 アフリカ投資で先行する中国は17年8月ジブチに恒久基地を建設し終えた。中国が建設した自由貿易ゾーンの中だった。まさに経済権益を守る軍隊の姿を直接示している。

 日本は11年につくった基地を恒久化すると報道されている。期間限定の「海賊対処」のためでないのは明白。本格化するアフリカ市場の争奪戦に「参戦」するためだ。

 政府は、8月28日〜30日に第7回アフリカ会議を横浜市で開く。3年前の第6回では、官民総額300億ドルの投資が表明された。今年は、初めて「2国間委員会」を設置し民間投資を直接後押しする。あわせて、中国融資による「借金漬け」を議題にあげ、日本側に取り込むつもりだ。

 「最後の市場」といわれるアフリカをめぐるグローバル資本の争いは始まったばかりだ。安倍政権、そして文政権もまた「イラン包囲」の軍事緊張を利用しながら、海外派兵部隊の増強を狙っている。いまほど日韓市民による派兵反対、平和実現の連帯行動が必要な時はない。
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