2019年09月06日 1590号

【危険な「自治体戦略2040構想」/地方自治解体―実質改憲ねらう】

 自治体から自治を奪い、公務員を半減し、公共サービスは民間企業に―戦争する国づくりと大資本のもうけのために安倍政権が自治体つぶしに本腰を入れている。その方針を示すのが「自治体戦略2040構想」だ。憲法と地方自治をめぐる戦後最大の危機が迫っている。

自治破壊4つの柱

 総務省の研究会(総務大臣主催)が18年7月、「自治体戦略2040構想」(構想)を発表した。「2040年頃、人口減少と高齢化がピークに達し、行政は介護、医療、労働力、都市空洞化など社会を維持する課題に直面する」―構想はこの「解決策」として以下の4つの柱を提示する。

 (1)「スマート自治体への転換」。AI(人工知能)や ロボティクス(ロボット学)を導入し、今の半数の公務員で自治体業務ができるように「自治体行政の標準化・共通化」を進める。

 (2)「公共私による暮らしの維持」。公(自治体)は「サービス・プロバイダー」(直接のサービス提供者)であることをやめ、「プラットフォーム・ビルダー」に、自治体職員は「プロジェクト・マネジャー」にする。共(地域の運営組織、自治組織など)、私(民間企業など)に公共サービスの提供をまかせ、自治体はその管理者になる。

 (3)「圏域マネジメントと二層制の柔軟化」。中枢都市とその周辺の複数の自治体で構成される地域を「圏域」とし、1つの「自治体」と見立てて広域の行政を行なう。その「圏域」に入らない自治体は都道府県と市町村という二層制の枠を超えて、半ば一体化して都道府県のマネジメントの下で行政を行なう。

 (4)「東京圏のプラットフォーム」。東京を資本のための経済成長のエンジンとして位置づけ維持するために、神奈川、埼玉、千葉各県を東京都を中心にした圏域として、政府も含めて医療・介護などのサービス供給体制などを構築する。




法制化急ぐ「圏域」

 自治の根幹を破壊するのが(3)「圏域マネジメントと二層制の柔軟化」の方針だ。

 これは、国が主導して中心となる中枢都市に権限を集中させるものであり、周辺自治体は自己決定権を奪われる(=自治の放棄)ことになる。「圏域」については、すでに安倍首相が第32次地方制度調査会に対して法制化を諮問(18年7月)しており、20年までに答申が出される。

 日本弁護士連合会(日弁連)は「圏域」の法制化を検討する地方制度調査会に「慎重になされるべき」とする意見書を出した(18年10月)。「国が主導して市町村の権限の一部を『圏域』に担わせようとするものであり、自治体が自主的権限によって、自らの事務を処理するという団体自治の観点から問題がある。また、住民による選挙で直接選ばれた首長及び議員からなる議会もない『圏域』に対し、国が直接財源措置を行うことは住民の意思を尊重する住民自治の観点からも問題がある。これらの点は、憲法上の保障である地方自治の本旨との関係で看過できない問題である」

 構想が提示する他の柱も問題だ。(1)「スマート自治体への転換」のために「自治体行政の標準化・共通化」をすすめることは、公共サービスの一層の民営化に道をひらく。また「AIなどの活用」と言うが、AIはあくまでも自治体労働者の補助手段に過ぎない。憲法と地方自治法に基づき自治体の責務を判断し全うできるのは現場の自治体労働者である。

 (2)の「自治体プラットフォーム・ビルダー論」に至っては、企業がサービス供給を行えるようにする民営化と自治体業務を地域に丸投げする公共の放棄を制度化するものであり、断じて認められない。


地方政策の失敗

 報告書はICT(情報通信技術)用語満載だ。例えば、「危機を乗り越えるために必要となる新たな施策(アプリケーション)の開発」「自治体行政(OS)の書き換えを構想」。まるで、自治体は国の施策(アプリ)を動かすためのOS(基本ソフト)を搭載したスマホと言わんばかりだ。地方自治や主権者たる市民の姿はかけらもない。

 しかし、構想が前提とする「少子化による急速な人口減少と高齢化」の危機は、雇用の非正規化を進め、子どもを産み育てることを困難にし、市町村合併で過疎化を進行させてきた歴代自民党政権の政策の結果なのだ。それをあたかも自然現象かのように描き「社会の自己責任」論にすり替え、そのもとで公共サービスの民営化と自治体の国家への従属で乗り切ろうとする構想は、まさに地方自治の本旨を破壊する実質的な改憲であり、基礎自治体と地方自治の解体に他ならないのであり、道州制導入の制度的露払いと言える。

 この構想が狙う新自由主義的な自治体・地域再編から地域と市民を守るため、一人ひとりの人権と福祉の拡充をめざす自治体を実現することが求められている。
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