2019年09月06日 1590号

【イラク労働者共産党 サミール・アディルさんが語る/長い歴史もつイラン労働者の闘い/前進するイラクの若者・女性組織化】

 米トランプ政権による戦争挑発が強まる中で見逃せないのが、イランの労働者・市民の動向だ。イランに多くの同志・友人を持つイラク労働者共産党のサミール・アディルさんに、イラクの若者たちの状況と合わせて語ってもらった。(7月27日)



 イランにおける労働者の闘いには長い歴史がある。

 1979年の革命で樹立されたイラン・イスラム共和国の政府は労働者のあらゆる活動を禁止しようとした。
 労働者たちは当時、各工場に「労働者評議会」を組織していた。ロシア革命の「労働者代表ソビエト」と同じものだ。親米のパーレビ王政を打倒した革命の原動力は、石油部門の労働者のストライキ。石油労働者は「われわれは軍や警察に石油燃料を供給しない。民衆にだけ供給する」と主張し、ゼネスト(全産業規模のスト)を主導した。社会主義運動も盛んだった。

広がるイラン労働者のスト

 イスラム共和国政府は労働者の闘いを抑え込むため、対抗して「イスラム評議会」をつくる。労働者側も反撃したが、政府側が優勢に。80年に始まったイラン・イラク戦争を利用し、国民の意識を「イラクの攻撃からイランを守れ」と民族主義の下に統合したからだ。労働者は賃上げなど生活のための防衛的な闘いを柱とせざるを得なくなる。

 91年、イラン労働者共産党が設立されると、海外の同志たちは「イラン労働者連帯委員会」を組織。イラン労働者の苦境についてILO(国際労働機関)やICFTU(国際自由労連)などに訴え、支援をかちとってきた。

 ここ4〜5年、イラン労働者の闘いは再び活性化しつつある。とくに昨年は、米国による経済制裁が再開され、通貨リアルが下落。企業・工場の閉鎖が相次ぎ、多くの労働者が職を失った。いかなる口実であろうと、制裁は非難されなくてはならない。

 これに対しストライキが各地で起きている。その一つが南西部フーゼスターン州のハフト・タッペ製糖工場労働者のストだ。イラン最古の砂糖精製場だが、15年に民営化。賃金・年金の引き上げなどを求めたストに、政府は労働組合リーダーの逮捕で報復を加えた。ストや座り込みは化学、自動車、カーペット製造などの工場でも。イラン政府はストを弾圧し、活動家を多数拘束したが、われわれの国際キャンペーンによって釈放を余儀なくされている。

 3月末からの豪雨によるイラン南部の洪水被害に対しイラク政府やレバノンのシーア派イスラム主義組織ヒズボラが救援のため民兵を派遣すると表明したが、その真の目的はイラン労働者・民衆の運動を抑圧することにある。

イスラム主義に抵抗拡大

 イラク情勢で重要なのは二点。第一に、イスラム主義に対する人びとの抵抗だ。これには二つの側面があって、一つは若い世代が宗教やイスラム主義に反発し、無神論・マルクス主義・政教分離を支持する傾向を強めていること。もう一つは人びとが社会サービス=雇用機会や医療保障などを強く求めていることだ。

 第二に、政治権力の危機。どのブルジョワ政党、イスラム主義政党も権力をめぐる危機を解消できていない。イラン側につくのか米国側につくのか、誰もが様子見だ。しかし、イラン・イスラム共和国政府は様子見を許さず、イラン支持をイラク政府に迫る。

 イラン・イラク戦争の8年とイラン・イスラム共和国のイラクにおける悪しき役割により、反イランの民族主義と米国支持の思想が幅を利かせている。「イランに勝てるのはアメリカだ」と。われわれはこれに抗し、米国の政策を批判するデモをイラク国内で組織しつつある。

 イラクの若者たちは、15年間のイスラム主義政権下の汚職・腐敗、失業、誘拐やレイプ・殺害に怒りを抱いている。IS(イスラム国)の犯罪もシーア派私兵集団の犯罪も同じ。SNSを通じて情報に接し、イスラム主義者の政治はフェイク、金儲けの手段にすぎないと分かってきた。

 イラク労働者共産党やその運動に最近加わった人の9割以上が18〜29歳だ。

 南部バスラで昨年、大規模な抗議行動があり、州知事をはじめ州政府高官全員がバスラから脱出する事態になった。軍やシーア派私兵集団も撤収し、バスラ市内は治安空白地帯と化した。

抗議行動担う若者

 われわれは円卓会議を開催した。抗議行動を担った若者は“組織”を嫌う傾向がある。どうすれば彼らの気持ちを傷つけることなく集まってもらえるか。それが円卓会議だ。

 11月には24人の若者活動家が集い、逃げ出した知事の復権をなぜ許しているのか、議論した。今年1月、2回目の円卓会議には45人が参加、うち8人は女性(11月は女性ゼロ)。女性運動、労働運動などをどう一つにつないでいくか話し合い、3月8日の国際女性デーにはバグダッドでイラク現代史上初めての集会を開催した。メーデーを経て、6月に第3回円卓会議。女性20人を含む65人が参加した。

 いずれも運動のリーダーで、背後にはたくさんの若者たちがいる。「なぜもっと早くあなたがた(労働者共産党)と出会えなかったんだろう」と言う人もいて、今ともに抗議行動の組織化を進めている。

 居住地における16歳以上のすべての人びとに開かれた失業者組合を再度結成したい。炊事や育児などの家事労働に対価としての報酬支払いを求める女性たちの運動も支援していく。

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