2019年09月06日 1590号

【コラム見・聞・感/安倍「新自由主義農政」が生んだ豚コレラの悲劇】

 現在、農業とりわけ養豚業界を揺るがす大問題が起きている。豚コレラ問題だ。

 豚コレラは感染力が非常に強く、口蹄疫(こうていえき)や鳥インフルエンザなどと並んで家畜伝染病予防法で「指定伝染病」に位置づけられる。空港等での検疫、発生した農場での家畜の移動制限、殺処分などが必要だ。豚以外には感染せず、感染した豚の肉を食べても人間に影響はない。アフリカ豚コレラとは名称がよく似ているが別の病気だ。

 当初は岐阜県で発生、愛知県のほか大阪府、長野県、滋賀県にも飛び火している。豚の殺処分は12万頭を超えた。2010年、宮崎での口蹄疫による豚の殺処分が20万頭だからその半数に達している。愛知では県の農業試験場の豚までが感染。口蹄疫の時ですら宮崎県農業試験場のブランド牛は残ったから、当時を超える事態も起き始めている。

 これだけの事態になっているのに、まともに報道しているのは「日本農業新聞」くらいで一般メディアはまったく報道していない。口蹄疫の時は発生から収束まで毎日トップニュースだったのに、何が違うのだろうと考えてみたら、当時は民主党政権、今は自民党政権だ。当時の口蹄疫報道は民主党政権の「政権担当能力のなさ」をアピールするため、自民党とメディアが結託したキャンペーンだったのだろう。その後、彼らの狙い通り民主党政権は崩壊。「悪夢の民主党よりマシ」と繰り返す安倍が7年ものさばる一因となっている。

 拡大の一途をたどる豚コレラに対し、養豚農家はもちろん、日本養豚協会など業界団体からもワクチン接種を求める声が上がっているが、安倍政権は無視し続ける。接種すれば豚コレラの非清浄国(汚染国)扱いになり豚の輸出ができなくなるからだ。清浄国かどうかの決定権は、パリに本部を置く国際獣疫事務局(OIE)だけが持つ。

 安倍政権は海外への農産物輸出を主要戦略に位置づけている。食料自給率が4割を切り、関東・東北の大部分に福島原発事故の影響が残る日本が食料輸出戦略など論外だが、安倍政権がワクチン接種をさせない理由として間違いなくこの輸出戦略がある。

 安倍の輸出戦略の対象になっているのはブランド品や高級品だ。このままでは日本の安全で高品質の食料品はすべて国内外の富裕層に渡り、貧困層は産地も品質も、安全性も保障されない粗悪な食料品を口にするしかなくなる。そうなる前に、養豚農家に連帯し安倍「新自由主義農政」を終わらせることこそ日本と世界の99%の義務だ。
       (水樹平和)
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS