2019年09月06日 1590号

【韓国叩きと朝鮮人虐殺/関東大震災の史実を歪める小池知事/差別と排外主義は人を殺す】

 東京都の小池百合子知事は、関東大震災時に虐殺された朝鮮人犠牲者の追悼式(9/1)に追悼文を送らない考えを明らかにした。過去に目を閉ざす者は同じ過ちをくり返す。安倍政権による「韓国叩き」が吹き荒れる今だからこそ、民族差別と排外主義の恐ろしさを、この日本で起きた最悪のヘイトクライムから学びとる必要がある。

明らかに集団虐殺

 歴代都知事が続けてきた追悼文の送付を小池知事が取りやめたのは2017年のこと。今年で3年連続の見送りとなる。その理由を知事は「毎年9月と3月に全ての犠牲者への哀悼を表明している」(8/9定例会見)と説明した。朝鮮人犠牲者を特別扱いはしないと言いたいのだろう。

 しかし、不可抗力の災害による死者と人間によって殺された者を「さまざまな事情で亡くなられた方々」(小池知事)との表現で一括りにすることはおかしい。多くの朝鮮人は日本の軍隊、警察、流言を信じた民衆によって殺されたのだ。ただ、朝鮮人であるというだけで…。

 1923年9月1日の震災発生後、「朝鮮人が暴動を起こしている」「井戸に毒を入れた」「放火した」などの流言飛語が飛び交う中、多くの朝鮮人や中国人が殺傷された。命を奪われた者は数千人に上ると見られている。

 治安出動した軍隊は多くの朝鮮人を殺した。住民の安全を守るべき警察も迫害に加担した。だが、朝鮮人たちにとって最大の脅威は住民が組織した自警団であった。自警団が警察署を襲い、収容されていた朝鮮人を引きずり出して殺傷した事例すら複数報告されている。

 「惨殺の模様は、とうてい口では言いあらわせない。日本人の残虐さを思い知らされたような気がした。何百人という群衆が暴れまわっているのを、一人や二人の巡査では、とうてい手出しも出来なかった。(朝鮮人の中には)子供も沢山居たが、子供達は並べられて、親の見ているまえで首をはねられ、そのあと親達をはりつけにしていた」

 これは埼玉県北部の警察署で巡査をしていた者の証言である。東京や横浜とは違い、地震による混乱は少ないはずの地域で、なぜ朝鮮人虐殺が発生したのか。その背景には「不逞鮮人(ふていせんじん)」への警戒を呼び掛ける埼玉県内務部長名の通達があった。行政が差別デマを拡散することの恐ろしさ、犯罪性がよくわかる。

今の日本と重なる

 朝鮮人虐殺の要因を当時の社会情勢から考えてみたい。震災4年前の1919年3月、日本の植民地支配下にあった朝鮮全土で大規模な反対運動が発生した(三一独立運動)。日本政府はこれを武力で徹底的に弾圧した。そして日本の新聞は「不逞鮮人が日本人を襲う」との図式で事件を報道し続けた。不当な植民地支配に対する抗議を、あたかも日本人そのものへの理不尽な憎しみであるかのように歪めて伝えたのである。

 プロレタリア作家の中西伊之助は当時の空気を次のように描写している。「試みに、朝鮮及び日本において発行せられている日刊新聞の、朝鮮人に関する記事をごらんなさい。(中略)爆弾、短銃、襲撃、殺傷、――あらゆる戦慄すべき文字を羅列して、いわゆる不逞鮮人の不逞行動を報道しています。それも新聞記者の事あれかしの誇張的筆法をもって」

 かくして日本の民衆の中に、植民地支配に由来する朝鮮人蔑視の感情とともに、「朝鮮人は怖い」との恐怖心が蓄積されていった。その潜在意識が巨大災害に直面した不安の中で爆発し、「日本人の敵」=朝鮮人の皆殺しへと発展したのである。

 それにしても中西の一文は生々しい。まるで官民一体の「韓国叩き」が猛威をふるう現在の日本の状況を表現しているようだ。ノンフィクション作家の加藤直樹が「私たちはいまだに植民地支配がつくり出した『黒き幻影』の時代、朝鮮人虐殺の残響が続く時代を生きている」(『九月、東京の路上で』)と指摘するとおりである。

隠蔽は戦争準備

 コラムニストの小田嶋隆は朝鮮人虐殺についてこう述べている。「わずか90数年前に、われわれは、6000人以上にのぼる無辜(むこ)の朝鮮人を殺しているのだ。(中略)同じ状況に遭遇すれば、私たちは、また同じことを繰り返すかもしれない。そのおそろしい可能性を断つためにも、この事件は、われわれが何度も振り返り、その意味を噛み締めなければならないものだ」(日経ビジネスオンライン/17年9月1日配信記事)

 差別と排外主義は人を殺す。「歴史上の汚点」であるからこそ、その事実と真摯に向き合い「苦い教訓」としなければならないのである。

 ところが、安倍政権に連なる歴史修正主義者たちは都合の悪い事実を隠し、あげくのはては正当化しようとしている。「朝鮮人暴動は事実だった。自警団が朝鮮人を殺したのは正当防衛であり、虐殺と呼ばれるべきではない」というのである。

 もちろん、そんな史実はない。朝鮮人の暴動やテロなどなかったことは当時の司法省や警視庁の震災総括文書も認めている。だが、「虐殺否定論」の勢いは増す一方だ。安倍晋三首相がツイッターで紹介した『日本国紀』(百田尚樹著)は65万部を超えるベストセラーになった。

 侵略戦争や植民地支配の事実を語ること自体を「反日」行為とみなし攻撃する―。そんな風潮が安倍政権の下で作り出されている。それはまさに次の戦争の準備にほかならない。       (M)



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