2021年10月01日 1692号

【安倍・菅を継承する新総裁/辺野古建設・南西諸島軍事化 加速のおそれ/軍事費拡大に歯止めなし】

 自民党総裁選は「お家騒動」そのもの。跡目争いは安倍・菅政権を批判することはなく、これまでの悪行を深化させることになる。新型コロナ対策では無策・無能ぶりが継続。その一方で、戦争国家づくりは休みなく続く。総裁候補者は軍事費拡大を競い合う有様だ。軍拡よりコロナ対策。この当たり前の選択を突き付け、戦争国家づくり、軍拡予算を転換させよう。

「GDP1%枠」撤廃狙う

 「必要なところにしっかりお金をかけないと日本を守れない」。総裁選告示を前(9/10)に候補者の一人、高市早苗がこう言ったのはコロナ対策ではなかった。「米欧並みにするならばGDP(国内総生産)の2%で、10兆円規模に」というのは軍事費。今の倍額にせよと言うのだ。

 これまで軍事費は曲がりなりにもGDP1%以内が目安とされてきた。安倍政権下で過去最高額を更新してきたものの、2020年度の軍事費はGDP比0・94%。辛うじて1%以内になっている。だが17年、安倍首相(当時)はすでに国会で「1%枠に抑える考え方はない」と発言。18年には自民党として「2%」を目標に掲げている。高市は他の候補者から軍拡発言を引き出す役を演じた。

 岸田文雄は負けじと「1%などの数字には縛られない」(9/12)と応じた。安倍政権で長い間外相の職にあった岸田だが外交という「対話」による成果は何もあげていない。好戦派安倍への抵抗など考えてもみなかった結果だ。河野太郎は「総額として増やさざるを得ない」(9/13)と軍事費増を進める立場だ。野田聖子は候補者が揃ってテレビ出演した時に、岸田から「安全保障政策」を問われ以下のように答えている。「中国がミサイル開発など軍拡路線をとっているが、米中を対立させるのではなく、行司役を買ってでる」(9/18報道ステーション)。野田は日中の経済的な結びつきを重視すべきと真っ当なことを述べ、好戦派との違いをみせたが、勝負圏外にある気楽さからだろう。

 年末にかけて22年度予算編成の時期になる。中国脅威論を基に軍拡を当然視する自民党政権が続けば間違いなく軍事費拡大は避けられない。コロナ対策優先という論点など皆無なのだ。

中期防見直しで新兵器開発

 防衛省が提出した22年度予算の概算要求を見てみる。総額5兆4797億円は21年度当初予算の2・6%増。名目GDP(予測値)の0・97%だ。コロナの影響によりGDPが予測値を下回れば1%枠を超える。その結果は予算成立後しか分からない。

 概算要求には金額を明示しない事項要求などもあり、総額はまさに政権次第のところがあるが、概算要求額は昨年度より少しばかり控えている。予算要求の根拠となる中期防衛力整備計画(中期防)の見直しを想定しているからだ。軍事戦略の基本を定める防衛大綱(19年度からおおむね10年)の下で、兵器体系の整備計画などを定める中期防は、現在19年度から23年度を計画年としている。これを見直すというのだ。見直し後の中期防は一層の軍拡を正当化するものになるのは目に見えている。

 すでに岸田は「中期防改定の前倒し」に言及している(9/13)。22年度予算をあらたな5か年計画の初年度にしたい意向だ。

 何をするつもりなのか。防衛省は概算要求の考え方に昨年度にはなかった「ゲーム・チェンジャーになり得る技術等の研究開発や防衛産業基盤の強化」を付け加えている。戦争におけるゲーム・チェンジャーとは、敵を圧倒する攻撃力を意味するのは明らかだ。

 無人機による攻撃を無力化させる高出力マイクロ波(HPM)、火薬による弾丸発射速度の数倍速く撃ち出せるレールガンなど新兵器の実用化とともに、それを支える国内軍需産業へのテコ入れまでうたっている。河野が「総額を増やさざるを得ない」とした理由がこの「ゲーム・チェンジャー技術」への対応だった。「敵基地攻撃力」について考えを聞かれた河野は「敵基地攻撃能力ではなく抑止力の議論を」と言葉の言い換えでごまかしたが、「抑止力」とは「攻撃力」に他ならない。予算編成前に新中期防が策定されればさらなる上積みは必至だ。

戦争国家づくり止める政権交代

 安倍・菅政権9年と安倍第1次政権の1年を合わせれば10年間、戦争国家づくりは加速してきた。06年の教育基本法改悪、防衛庁の省への格上げに始まり、戦争法、土地規制法の制定と数え上げればきりがない。それに批判を向ける候補者はいない。

 辺野古新基地建設を閣議決定したのも06年。第2次政権下では発足1年を前にした13年12月、官房長官であった菅が沖縄県仲井眞弘多(ひろかず)知事(当時)を懐柔し、辺野古埋め立て承認に転じさせたことは、地方自治、民主主義破壊の始まりだった。

 戦争国家づくりの政治が何をもたらすのか、辺野古に集中的に現れた。菅が沖縄に向けて吐いた暴言の数々を忘れるわけにはいかない。「辺野古移設はわたしのすべて」「(反対があろうが)粛々と進める」「沖縄の歴史は知らない」「(民意は)わからない」。辺野古反対を示す選挙結果や県民投票結果を一顧だにせず、本土から機動隊を投入して反対する市民を弾圧した。司法の判断さえ歪め、公然と民主主義を破壊する。戦争国家とはこうした姿をとることをまざまざと見せつけた。

 沖縄防衛局は辺野古で新たな護岸建設を始めた。埋め立て作業の速度を早めるためだ。そのために県の制止を無視しサンゴ「移植」を強行した。すべてが県が審査中の設計変更を前提にした工事だ。県が変更を承認しなければ、してはならない工事なのだ。



 辺野古での無法な振る舞いは、そのまま南西諸島でのミサイル基地建設に持ちこまれた。地域住民だけでなく、地元自治体をないがしろにする。民意などいつでも踏みにじれると思っている。これが戦争国家だ。

 しかし、全国の自治体で戦争犠牲者の遺骨が混在する土砂を埋め立てに使うことに抗議する決議があがりはじめた。保守派が多数を占める議会においても、辺野古基地建設中止を求めるものもある。

 自民党総裁は好きに選べばよいが、どの候補者も首相に就かせるわけにはいけない。コロナ対策、平和、民主主義、どの点からも政権交代、これ以外に選択肢はない。



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