2021年10月01日 1692号

【新型コロナ/遅まきながらの臨時医療施設/収容施設ではなく治療できる施設に】

安全性検証なき「治療薬」

 やはり命よりカネ≠セった。9月9日の会見で菅義偉(すがよしひで)首相は、新型コロナ感染症対策の反省点として「医療体制を確保することができなかった」、課題として「治療薬やワクチンの治験の承認が遅い」をあげた。

 だが同日、緊急事態宣言さなかに規制緩和の具体案を発表。今回の宣言下では実施しないとしつつ、次の宣言下では「ワクチン接種証明や検査陰性証明」を使った行動規制緩和の適用もあり得るとした。「GoTo」「オリパラ」推進とやってるふり≠フ新型コロナ感染症対策で支持を失ったのに、またぞろ、カネ≠セ。

 また課題とした「承認が遅い」は全くの理解不足だ。医薬品の承認は、安全性と効果が担保されていなければならない。

 だが、菅は十分な臨床試験を経ない「特例承認」をワクチンや治療薬で乱発した。エボラ出血熱の薬として開発されたレムデシビルに至っては、健康保険適用とした。通常、保険適用となるのは科学的根拠に基づいて効果が証明された「標準治療」に限られる。レムデシビルはWHO(世界保健機関)ですらその効果を疑問視している。添付文書によると第V相国際共同臨床試験(注)は1062例にすぎず、国内はたったの15例だ。

 菅は、反省点=欠けていた対策の実現への具体策こそ直ちに決定すべきだ。

ようやく臨時医療施設

 新型コロナウイルスが表れた中国・武漢市では、工期10日で千床の病院を新設、その後、1600床の病院も追加建設した。英国も全国6か所で大規模な臨時医療施設を作った。日本ではこれらと比較にならないほどの小規模ながら、東京・大阪・神戸・神奈川で建設されていた。最近では、福井県が「在宅療養はさせない」と百床規模の施設を設置した。遅きに失したものの、菅政権も臨時医療施設建設にようやく言及した。

 以下、その臨時医療施設について見ていく。

フル設備の臨時病院を

 厚生労働省によれば、18都道府県が臨時医療施設と称して28施設を設置する(開設済みを含む。9/3現在)。

 だが、「酸素ステーション」「入院待機ステーション」といった入院への繋ぎのような施設であってはならない。「第4波」で医療崩壊ともいうべき事態に陥った維新・吉村洋文(よしむらひろふみ)大阪府知事が新設を表明した施設も、この範囲にとどまる。

 こういった施設は、在宅療養による家庭内感染を防ぐという意味では、隔離による感染拡大防止、ひいては政府の狙う行動規制緩和による「経済回復」には寄与するかもしれない。だが、治療ができなければ感染者は放置されるに等しい。感染者に必要なのは医療だ。

 第4波、第5波での「医療逼迫(いりょうひっぱく)」の内容はなにか。入院先がなく感染者への医療提供が遅れ病状が進行し、軽症で済んだはずの感染者が中等症・重症化。重症者が中等症病床にあふれ出し、中等症患者が軽症病床にあふれ出し、軽症者が自宅や宿泊療養を余儀なくされ、病気がそこでも進行する。回復した重症者を中等症病床に移せず、重症者病床不足の原因となる。このような悪循環で感染者の命を守る医療供給が不足した。

 臨時施設は収容・隔離に止めず、医療を提供できるフルスペックの大規模な施設でなければならない。

 早期に感染者を医療に結びつけ病気の進行を防ぐこと。そして、回復者を症状に応じた医療施設へ移し、重症病床を空けること。変異株の特徴である急変に備えて、後送病院も確保すること。そうすれば、今よりも感染者の命を守れる。

 医療提供側の負荷も軽減できる。在宅や宿泊施設への感染者の分散による、往診など医療供給ための負荷は改善される。ゾーン分けもでき、医療者も守られる。新型コロナ感染症であふれる既存の病床を空けることができれば、通常の医療の継続・再開も可能となる。

直ちに財政出動が必要

 単にベッドを並べるだけではなく医療資機材や医療者の確保も必要だ。自治体の費用負担は大きくなる。だが、菅政権は自治体への臨時医療施設設置要請≠ノとどまり、財源と人員保障に積極的に動く気配はない。政府は予備費の投入と軍事費削減で医療費を増額し、自治体財政支援、医療者の待遇改善と安全確保に集中的に財源を割り当てるべきだ。《6面に関連記事》

(注)通常、医薬品の安全性と治療効果を測る臨床試験は3段階に分かれ、第V相試験は市販に向けた最終試験として実施される。だが、ワクチンも含め新型コロナ感染症関係の医薬品については、国内では臨床試験を非常に簡略化した「特例承認」であり、予防・治療として広く投与されている現状が事実上の国内の第V相試験となっている。


臨時の医療施設開設は義務だ(新型コロナ特措法より抜粋)

第三十一条の二 都道府県知事は、…病院その他の医療機関が不足し、医療の提供に支障が生ずると認める場合には、患者等に対する医療の提供を行うための施設(医療施設)であって都道府県知事が臨時に開設するものにおいて医療を提供しなければならない。

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