2022年12月09日 1751号

【《アメリカ民主主義的社会主義者/DSAニックの/アメリカレポート》《第2回》/米北西部シアトル/5日間の教員ストライキ決行/さらなる改革求める社会主義者】

 全米で新たな労働組合の結成を求める動きが広がる中、弱体化の進む労働組合をより民主的闘争的にしていくための運動も存在する。米北西部シアトルの公立学校教員組合でも、こういった活動に励む社会主義者がいる。DSAシアトル支部のメンバーで、市の小学校で教員として勤めるタイラー・ドゥプィさん(33歳)の話を聞いた。

 幼稚園から高校まで5万人以上の生徒が公立学校に通うシアトル。その生徒たちの教育に携わるのが、シアトル教員組合に所属する約6千人の教員だ。

 この学区が抱える問題は多い。シアトルは、比較的裕福な白人層が多い北部と、多様な人種の労働者階級が多い南部に分かれている。学校の設備も、北部と南部では差が大きい。タイラーさんが勤める小学校は南部に位置し、水道やトイレの故障が目立ち、担任教師1人が受け持つ生徒数の数が多すぎると言う。「生徒たちが学ぶ環境と私たちが働く環境は、とても似ている」とタイラーさんは述べる。

全職員賃上げ勝ち取る

 今年9月、新学年が始まる1週間前、シアトル教員組合は、ストライキ権確立のための投票を行った。組合員の95%が賛成に投票した。引き金となった主な問題点は2つ。(1)学区当局の新たな方針による、多言語使用教員や特別支援教育者の削減(2)こうした教員補助員の低賃金―の問題だ。

 当局と組合の契約交渉は合意に至らず、新学期初日の9月7日、ストライキが決行された。シアトルの学校はすべて閉鎖され、地元だけではなく全米のメディアでも大きく取り上げられた。ストは5日間続き、学区当局の新たな方針は撤回され、組合は教員補助を含む全職員の賃金の引き上げを勝ち取ることに成功した。

 しかし、タイラーさんによると、組合幹部らは、まともに準備を行わずストライキに挑み、非民主的な手段を使ってストを終了させた。多くの教員は、生徒や教員にとってよりよい学校を目指すために、「学区当局に対してもっと対決点を鮮明にしたストライキを求めていた」とタイラーさんは語る。だが、組合幹部は、いかに早く契約交渉を進めストを終わらせるかを重視した。組合幹部の交渉は、学区の新方針を一時的に止めることには成功したが、教育制度の構造的な改革には及ばなかった。

民主的な闘う組合へ

 そうした変革を求めるのが、タイラーさんが所属するSCORE(Seattle Caucus of Rank and File Educators=シアトル一般教員会議)だ。SCOREに所属する組合員たちは、(1)賃金引き上げ(2)クラス定員の引き下げ(3)多言語使用教員・特別支援教育者などの生徒補助の充実―を現実化するためには、より民主的で、学区当局に対して闘う組合が必要だと考える。教育制度の改革には、教員の労働条件を向上させなければならない。SCOREに所属する組合員はまだごく少数だが、組合内での影響力を強めようとしている。

 「社会主義者は、労働組合やストライキがどれだけ強力か理解している。今回のストでも、本当はもっと勝ち取れたはずだ」―タイラーさんはそう述べる。

 SCOREは、すでに次の契約交渉に向けての準備を進めている。「私たちは勝利できる。私たちは何が可能かを理解しており、その可能性にたどり着く方法も理解している」

 11月に行われた組合副委員長の選挙では、SCOREが支持する候補が見事勝利した。タイラーさんの希望は「学校環境を改善し、教育方法を改善し、次の世代をよりよくすること」。労働者の闘いは、職場だけではなく、社会を変える。

(筆者は、米北西部在住のDSAメンバー)



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